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借地人変更と敷金の返却について|弁護士Q&A

更新日:
作成日:
コンテンツ番号:1472

借地人変更と敷金の返却について

質問 BさんはAさんから建物保有目的で甲土地を借りていました。
その後、建物をCさんに譲渡しようと思い、Aさんに相談したところ承諾を得て、Cさんに建物は無事譲渡されました。
BさんはAさんとの借地権設定契約時に敷金をAさんに納めていたことを思い出し、Aさんに敷金の請求をしようと考えていますが、認められるのでしょうか。

借地人変更と敷金の返却の図

Bさんは敷金を返してもらうことが可能です。

詳細解説

敷金とは

敷金とは、契約締結に際して、契約成立時から契約終了時の目的物明渡終了時まで賃借人(借地権者)の債務不履行による損害(賃料の不払い、目的物の損傷)を担保するために、あらかじめ賃借人(借地権者)から、賃貸人(地主、借地権設定者)に交付されるものです。

契約が終了した際には、その損害額を差し引いて賃借人に返還されることになります。敷金のカバーする範囲は賃借人の「債務不履行による損害」(例えば、賃料の未払い、故意・過失による損傷等)を担保するものになります。したがって、通常の使用によって不可避的に発生する劣化については敷金はカバーしないと考えられます。

敷金イメージ

賃借人が変更になった場合

判例(最判昭53年12月22日民集32巻9号1768頁)では「特段の事情の無い限り、敷金に関する敷金交付者の権利義務関係は新賃借人には承継されない」としています。つまり、賃借人が変更になる場合敷金は新賃借人には承継されないということです。

特段の事情とは

例えば、旧賃借人が賃貸人に対して敷金を新賃借人の債務不履行を担保とすることを約束するか、または、旧賃借人が敷金返還請求権を新賃借人に譲渡する、と判例では言っています。
上記で敷金とは何かについて簡単に説明しました。それによると、敷金は「…契約成立時から契約終了時の目的物明渡終了時」までの債務不履行を担保する金銭になります。

そうすると、新賃借人に敷金の権利義務関係が引き継がれるとすると、旧賃借人は契約関係から離脱したにもかかわらず、新賃借人の債務不履行まで担保することになってしまい、敷金交付者に予期に反する不利益を被らせることも考えられます。

本件のBさんの立場に立って考えてみましょう。
Bさんの敷金はBさん自身の債務不履行があった場合に備えて、借地権設定契約時に金銭をAさんに交付しています。そして、BさんはCさんに建物を譲渡し、契約関係からは無関係になっています。そんなBさんにCさんの債務不履行(例えば、地代の滞納)まで負担させるというのは妥当ではないですよね。Cさんの債務不履行は、Cさん自身で負担すべきと言うのは、Bさんの立場に立てば当然と言えるでしょう。

尚、賃貸人が変更になった場合には敷金請求権は当然に新賃貸人に承継され(最判 昭44年7月17日民集23巻1610頁)、新賃貸人が敷金返還義務を負うことになります。

そもそも、賃貸人の義務内容は、賃貸人が変更になっても変化が無く、賃貸人が変更になっても賃借人にとって不利益を被ることは考えにくいことから、賃貸人の変更により、賃貸借契約の終了は当然にはおらないとされています。

その結果、敷金も新賃貸人に当然に承継されるとされています。その際は敷金全額を持って承継されるとされています。ただ、契約終了後の移転の場合には、敷金に関する権利義務が新所有者に当然に承継されるものではありません(最判昭48年2月2日)。

敷金の返還はいつ請求できるのか。

敷金は契約終了しても明け渡してとの同時履行の関係(留置権の発生も)には立ちません。

地主Aが敷金を『明け渡しが先!』と主張。借地人Bは『返還してくれたら明け渡すよ!』と主張している図

補足

  • 同時履行の抗弁権(民法533条)
    双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるとする権利(抗弁権)。

  • 留置権(民法295条)
    他人の物の占有者が、その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することを内容とする担保物権。

簡単に言うと、賃借人は「敷金が返ってくるまで明け渡さない、同時でないと明け渡しません」と賃貸人に主張することが出来ないということです。

なぜなら、敷金は「明渡時」までの債務不履行を担保する金銭です。明け渡しの際に何らかの物損が発生する場合も考えられると思います。そのため、敷金は明け渡して、損害があるか否かの点検が終了した後に返還されることになるのが原則です

このような敷金の問題を未然に防止するためには、

上記判例(最判昭53年12月22日民集32巻9号1768頁)を参考にするとあらかじめ、

  1. 借地権を譲渡する際には敷金返還請求権もともに譲渡しなければならない

  2. 新借地人が敷金を差し入れるまでは、旧借地人の敷金をもって新借地人の債務を担保する

等の特約を締結しておくことがトラブル防止になると考えられます。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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