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更新料と消費者契約法10条、
敷引と消費者契約法10条|弁護士Q&A

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更新料と消費者契約法10条、
敷引と消費者契約法10条

質問 A(地主)とB(借地人)は借地権設定契約を締結しましたが、この度期間満了に伴い更新の交渉に入りました。 Bは高額な更新料を求めてくるAが許せません。 確かに更新料の規定はありますが、そもそもこのような更新料を求めてくる条項自体が消費者契約法の「消費者の利益を一方的に害する条項の無効」(消費者契約法10条)に該当し無効ではないかと考えています。
このような見解は認められますか。

更新料を値上げする地主と困っている借地人の図

更新料について

借地(借家)契約においては、賃貸人が更新拒絶をするには「正当事由」が必要です。正当事由がない限り賃借人は更新を得られることとなります。
そこで、更新に際し金員の支払いを要するとする更新料特約が地主・借地人間で結ばれることが多くあります。

消費者契約法

消費者を守る法律として、消費者契約法があります。
消費者は事業者に比べて情報等の知識に乏しく交渉もできないことから、保護するためにこの法律が存在します。

(目的)

消費者契約法1条:「この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合等について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」

Bさんが主張している消費者契約法10条は下記のように記しています。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

消費者契約法10条:「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」

※民法1条2項:「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」

としています。そこで、本件Bが主張するように更新に際し金員の支払いを要するとする更新料特約が消費者契約法第10条に反して無効ではないか、と疑問が生じることになります。
同種の参考判例を見てみましょう。

♦参考判例:最判平23年7月15日

判旨①:更新料の法的性質について

「更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払によって賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当

判旨②:消費者契約法10条に反するか

「…更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また、一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや、従前、裁判上の和解手続等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどとして、これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』にはあたらない

まとめ

「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項」は、原則として消費者契約法10条に反しないものと判断したと評価することができます。
ただし、特段の事情、すわなわち、「更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情」が存在する場合には、消費者契約法10条に違反し更新料の特約は無効となります。

特段の事情については個別的事案に応じて判断されることにはなりますが、明らかに高すぎるというような場合でなければ認められることは難しいと考えられます。

敷引契約と消費者契約法10条について

敷引特約についても、更新料契約と同様に消費者契約法10条に違反し、無効なのではないかが争われていました。
敷引契約とは、「契約終了時に敷金(保証金を含む)のうち一定の金額を返還しない旨の特約条項を設けている契約」のことです。

  • 敷引契約は特に関西地方に多いです。

参考判例を見てみましょう。

♦参考判例:最判平23年7月12日

判旨:「賃貸借契約においては、本件特約のように、賃料のほかに、賃借人が賃貸人に権利金、礼金等様々な一時金を支払う旨の特約がされることが多いが、①賃貸人は、通常、賃料のほか種々の名目で授受される金員を含め、これらを総合的に考慮して契約条件を定め、また、②賃借人も、賃料のほかに賃借人が支払うべき一時金の額や、その全部ないし一部が建物の明渡し後も返還されない旨の契約条件が契約書に明記されていれば、賃貸借契約の締結に当たって、当該契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の賃貸物件の契約条件を比較検討して、自らにとってより有利な物件を選択することができるものと考えられる。

そうすると、賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め、賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば、それは賃貸人、賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから、③消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別、そうでない限り、これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。」

まとめ

  1. 賃貸人は賃料について、賃料だけではなく礼金や敷金がどれくらいの金額かで決めているはず

  2. 賃借人としては敷引契約が無い物件を選ぶことも可能

  3. 敷引の金額が賃料の額に照らし明らかに高額な場合にのみ消費者契約法10条に違反し、敷引契約は無効になる。

やはり、敷引の場合も敷引の金額が大きな判断基準になると言えそうです。

この記事の監修者

岡田 卓巳オカダ タクミ

弁護士

弁護士。早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。地代滞納、建物明け渡しなど借地権・底地権の案件へ積極的に取り組む。主な著書に「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」「遺言書作成遺言執行実務マニュアル」など。

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