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無権代理人の地位を相続|弁護士Q&A

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コンテンツ番号:1091

無権代理人の地位を相続

質問 1. 地主Aの息子Bが勝手に土地をCに売却してしまいました。
しかし、その後Aは病気で亡くなり唯一の相続人BがAの財産の一切を相続しました。
BはAの地位を相続したことを理由に追認を拒絶できるのでしょうか。
2. 1とは逆に息子Bが亡くなってしまい、AがBを相続した場合はどうでしょうか。

無権代理人の地位を相続の説明図

1. 無権代理人(B)が本人(A)を相続した場合

(相続の一般的効力)
民法896条:「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」

被相続人の財産に属した一切の権利義務」とは、プラスの財産に限らず、マイナスの財産、または履行義務等の一切を含みます。

したがって、BはAの本人としての地位(無権代理をされた被害者としての地位)も相続によって承継することになり、Bは下記2点が併存することになります。

  1. Aの地位(無権代理をされた被害者としての地位)

  2. 無権代理をした本人の地位

以下、本人としてできる行為、及び無権代理人の責任を整理します。

(1)本人(A)ができる行為

(無権代理)
民法103条:「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」

  • 1. 追認

  • 2. 追認拒絶

(2)無権代理人(B)の責任

(無権代理人の責任)
民法117条:「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。」

  • 3. 履行責任

  • 4. 履行できない場合相手方への損害賠償責任

Bは主に1. 追認、2. 追認拒絶、3. 履行責任、4. 履行できない場合相手方への損害賠償責任を有していることになります。この中で、2. 追認拒絶ができるかというのが最大の問題点です。
Bは無権代理人をした張本人であるにもかかわらず、本人の地位を援用し追認拒絶できるとすることを許してよいかという問題です。判例は同様のケースで下記のように判示しています。

♦参考判例: 最判昭昭和37年4月20日判決

判旨:「無権代理人が本人を相続した場合においては、自らした無権代理行為につき①本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、右無権代理行為は②相続と共に当然有効となると解するのが相当である」

としています。
1. 信義則を根拠に追認は認めず、2. 相続と共に当然に有効となるとしている点がポイントです。

2. 本人(A)が無権代理人(B)を相続した場合

1とは逆に、AがBを相続した場合はどうでしょうか。
Aは、無権代理人の地位も受け継ぐことになるので、この場合、Aは本人として1. 追認、2. 追認拒絶のできる地位があり、Bを相続した結果、無権代理人の責任として3. 履行責任、4. 履行できない場合相手方への損害賠償責任の4点があることになります。

このような場合について判例は、

♦参考判例: 最判昭37年4月20日判決

判旨:「本人が無権代理人の家督を相続した場合、被相続人の無権代理行為は、右相続により当然には有効となるものではない。

としています。当然に有効とはならないとしていることからも、無権代理行為をされた本人は本人として、追認拒絶をすることができます。
しかし、追認拒絶をした場合、無権代理人としての地位も相続してしまっているため、相手方に対する損害賠償は本人が支払う必要はあります。

  • 本人が追認した場合、無権代理行為は有効となります。

当然に有効とはならないといっても、残念ながら無権代理をされた本人は大きな損失を負ってしまうことには変わりありません。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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