借地権を相続したら?よくあるトラブルと相続放棄手順も解説|トラブル事例|借地権関連|法律・税金|相続関連

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借地権を相続したら?よくあるトラブルと相続放棄手順も解説

借地権は預金などと同様の遺産であるため、相続することができます。ただし、借地権の相続の際には、地主や他の相続人とトラブルになるケースも多々あるため注意が必要です。借地権を相続した際にしなくてはならないことや、相続するリスクなどを知ってトラブルを防ぎましょう。

当記事では、借地権を相続する際に必要なこと、よくあるトラブル、相続放棄の手順について紹介します。一見難しそうな借地権の相続について分かりやすく解説しているため、借地権を相続する人はぜひ参考にしてください。

 

1.借地権を相続したらどうすればいい?相続する際に必要なこと

借地権とは、建物を建てるために土地を借りる権利のことです。土地を購入せずに借りることで、出費を抑えて家を建てることができます。ただし、土地の所有者である地主に地代を支払う必要があり、ランニングコストがかかります。

借地権とは?種類やメリット・デメリット、借地権の対抗要件も解説

借地権は遺産として相続可能である一方、相続税や贈与税の課税対象になるため注意が必要です。

出典:国税庁「No.4611 借地権の評価」

以下では、借地権を相続するときに行うことや、確認すべきポイントについて解説します。

 

1-1.地主へ報告する

借地権の承継方法には「相続」と「遺贈」があります。相続の場合は地主の許可はいりませんが、遺贈の場合は地主の許可が必要です。

以下では、相続と遺贈それぞれのケースについて解説します。

借地権を相続するとき

借地権を相続できるのは、法定相続人(配偶者、子、父母、兄弟など)のみです。借地権を相続する際に、地主の許可や承諾料などは必要ありません。また、被相続人の権利がそのまま相続人に対して承継されるため、借地の契約内容も変わりません。相続したら、どのような契約内容なのか確認しておきましょう。

借地権を相続したら、地代の支払いや売却・建て替えの相談など、地主とコミュニケーションを取る機会が発生します。地主に対して相続の許可を求める必要はありませんが、良好な関係を築くために相続したことは必ず地主へ報告しておきましょう。

借地権を遺贈するとき

遺贈とは、被相続人の遺言書によって指名された相手に遺産の一部、または全部を譲ることです。遺贈の相手は法定相続人以外でも構いません。個人だけでなく病院やNPO法人といった団体・法人も指名できます。

相続とは異なり、遺贈の場合は地主の許可と承諾料の支払いが必要です。法定相続人でも、遺贈として引き継ぐ場合は地主の許可と承諾料の支払いが必要になるため注意しましょう。

承諾料は借地権価格の10%程度が一般的な相場ですが、契約内容などさまざまな事情を考慮して最終的な承諾料が決まります。

 

1-2.名義変更が必要か確認する

借地権を相続したら、借地権が登記されているかどうか確認しましょう。登記されていた場合は、借地権の名義変更手続きが必要です。

借地権は、基本的に借地に建てた建物を登記することで権利を主張できるため、登記されていることは稀です。相続が発生したからといって改めて借地権を登記する必要もなく、建物の名義変更のみ行えば問題ありません。

借地権が登記されているケースは、借地権を担保にして融資を受けていた場合などです。登記されている場合は、借地権と建物の両方の名義変更を行いましょう。なお、相続による借地権の名義変更は、地主の許可を得る必要はありません。

借地権と建物の名義変更には、以下の書類が必要になります。

  • ・遺産分割協議書
  • ・被相続人の戸籍謄本
  • ・被相続人の除住民票
  • ・相続人全員の戸籍謄本
  • ・相続人全員の印鑑証明書
  • ・借地権の相続人の住民票
  • ・固定資産税評価証明書
  • など

また、名義変更の手続きには以下の費用がかかることも覚えておきましょう。

  • ・戸籍謄本などの取得にかかる費用
  • ・登録免許税
  • ・司法書士代行費用(依頼する場合)

 

1-3.相続税を支払う

借地権は課税対象であるため、相続税を支払う必要があります。ただし、相続税の申告で借地権として評価するには、以下の条件を満たさなければなりません。

  • ・借地上に建物を建てて所有していること
  • ・使用貸借ではないこと

借地が更地状態の場合や地代を支払っていない場合は、借地権として評価されないため注意しましょう。

なお、相続税の申告時に必要となる普通借地権の相続税評価額は、以下の計算式で求められます。

普通借地権の評価額=土地の価格×借地権割合

「土地の価格」とは更地状態の土地の評価額で、路線価方式あるいは倍率方式という計算方法で算出します。「借地権割合」は国税局が地域ごとに設定しているもので、国税庁HPに掲載されている路線価図で確認可能です。都心部にある借地は土地の利用価値が高いため借地権割合も高く、反対に郊外の借地は割合が低い傾向にあります。

土地の価格の計算方法や借地権割合についての詳細は、以下の記事でも詳しく解説しています。

借地権割合とは?調べ方や評価額の計算方法も解説

定期借地権の相続税評価額については計算が複雑なため、正確な評価額が知りたい場合は専門家に依頼して算出してもらいましょう。

 

2.【借地権の相続トラブル】地主とのトラブル

借地権を相続するときは、地主とのトラブルに注意が必要です。相続のタイミングで、地主が借地人に対して不当な要求をしてくる場合があります。

また、相続のタイミング以外にも借地権に関するさまざまなトラブルが起こる恐れがあります。相続以外のトラブル例については下記の記事をご参照ください。

借地権で起こりやすいトラブルは?対処法も解説

相続に関連する地主とのトラブルは、発生しやすい事例を把握しておくことで対処できる可能性があります。以下では、トラブルの例を4つ紹介します。

 

2-1.名義変更料や相続の承諾料を要求された

相続によって借地人が変更になった際に、借地権の名義変更料や相続の承諾料を要求できると考える地主もいます。しかし、借地権の相続に地主の許可はいらないため、要求があっても承諾料などを支払う必要はありません。また、借地人が要求に応じなかったからといって、地主は賃貸借契約を解除することもできません。

ただし、要求された承諾料が少額だった場合は、地主との関係を悪化させないために支払いに応じることを検討してもよいでしょう。地主とは借地権の相続後も地代の支払いや建物の建て替え、借地権の売買の許可を得るために接する機会が多く、関係を良好に保つことは非常に大切です。

 

2-2.立ち退きを要求された

地主に立ち退きを要求されても、基本的に応じる必要はありません。借地権の契約期間は最短でも30年で、契約期間が満了しても、借地人が契約更新を請求した場合や土地の利用を継続した場合は、賃貸借契約を更新できます。

契約終了は、契約期間満了の上で地主が借地人に異議を述べ、その異議に正当事由がある場合にのみ認められます。正当事由とは、借地人が地代を支払っていない、借地人に土地の使用目的がないなどです。

正当事由がない場合は、相続を理由に地主が立ち退きを要求することはできません。

 

2-3.地代の値上げを要求された

相続の際に、地主から地代の値上げを要求される場合がありますが、原則応じる必要はありません。借地権は被相続人が契約していた内容をそのまま承継するためです。

ただし借地借家法第11条では、地価や税率の変動により地代が相場よりあまりにも安くなってしまった場合、地代の増減を要求できるという記載があります。

出典:e-GOV法令検索「借地借家法」

不動産を取り巻く環境に変化があれば、地代の値上げが認められることもあります。値上げを要求された場合は、値上げの根拠を確認した上で交渉を行うようにしましょう。

 

2-4.相続後に借地を転貸した

相続後に借地権を別の人へ転貸する場合は、地主の許可が必要です。未許可のまま転貸をすると、地主の要求により賃貸借契約が解除される恐れがあるため注意してください。

借地権を持っているのが親で、その子どもが自分の名義で親と住む住宅を建築する場合や、親子共有持分として建築する場合も転貸にあたります。勝手に転貸するとトラブルに発展するため、あらかじめ地主の許可を得るようにしましょう。

 

3.【借地権の相続トラブル】相続人同士のトラブル

借地権を相続する際には、相続人同士でもトラブルが起こる可能性があります。トラブルが大きくなると裁判に発展する恐れもあるため、あらかじめトラブルを防ぐ方法を把握しておきましょう。

以下では、相続人同士のトラブル事例と防止方法について詳しく解説します。

 

3-1.誰が借地権を相続するかで揉めてしまう

借地権付き建物は遺産の中でも価値が高いため、誰が相続するかで揉めるケースがあります。借地権の相続人を決める際は、遺産分割協議を行って誰が相続するか話し合いましょう。

話がまとまらず相続人全員の合意が得られない場合は、遺産分割調停によって法的手続きを取ることも考えましょう。遺産分割調停では家庭裁判所の調停委員が意見をまとめ、家事審判官が解決策を提示して遺産分割の話し合いを進めます。

 

3-2.共有名義の借地権で揉めてしまう

借地権の相続人を決めず共有名義で管理していると、一部の相続人が借地の保有にかかる費用を支払わないなどのトラブルが発生する可能性があります。保有にかかる費用とは、地代や固定資産税、建物の修繕費などです。金銭絡みのトラブルが発生すると、共有者同士の関係が悪化する恐れもあります。

また、借地権を売却したり、建物を建て替えたりする際は、共有者全員の同意が必要です。共有者が多いと全員で集まることも難しくなり、共有者同士の関係性が悪ければ話し合いは難航するでしょう。軽微な修繕や妨害排除請求は単独で行えますが、基本的に共有名義だと単独で決められることが少ないため、管理が難しくなります。

借地権は金銭のように簡単に分配できず、共有名義で管理するケースが多い一方で、さまざまな不都合が発生します。借地権を共有名義にすることは避け、相続人をきちんと決めたほうが後のトラブルを防げるでしょう。

 

4.借地権の相続を放棄したいときは?

借地権は相続せずに放棄することもできます。借地権を放棄すれば、以下のような手間や費用を負担せずに済みます。

  • ・建物の修繕や草むしりなど、土地の管理をする必要がない
  • ・被相続人が抱えていた借金を引き継がずに済む
  • ・地代や固定資産税を支払う必要がない

相続した借地が遠方にある場合は、借地を管理するために必要な移動の時間や交通費が負担になります。借金の金額が大きい場合や、地代などの支払いが負担になる場合もあるでしょう。借地権は財産価値が高いものの、上記のように負担が大きい場合は、相続放棄を検討しましょう。

以下では、相続放棄の注意点と手続きの流れについて詳しく紹介します。

 

4-1.借地権を相続放棄するときの注意点

借地権を相続放棄すると、費用の負担や借地の管理をせずに済みますが、以下の2つに注意する必要があります。相続放棄するかどうかは、注意点を踏まえた上で決めましょう。

他の遺産も相続できなくなる
借地権を相続放棄すると、預金や不動産などの遺産相続もできなくなります。相続できる遺産が多くプラスになる場合は、借地権を相続したほうがメリットが大きいです。多少の費用負担や管理の手間を惜しんで借地権を安易に手放すと、損する可能性があります。どのくらいの遺産があるか、事前によく確認しておきましょう。
他の相続人とトラブルになる可能性がある

相続の順番は法律で決められており、相続放棄すると相続権が次の順位の人に移ります。被相続人に配偶者がいる場合は必ず配偶者が相続人となり、さらに子どもがいれば配偶者と並んで子どもが相続人となります。子どもは第1順位の相続人であり、第2順位は被相続人の親、第3順位は被相続人の兄弟姉妹です。

他の相続人に相談することなく相続放棄すると、思わぬトラブルにつながる可能性があります。例えば被相続人に借金があり、子どもが相続放棄することになった場合、次の相続人が借金の存在を知らずにそのまま相続を承認することがあります。相続後に借金に気付き、相続人同士でトラブルに発展するなどのケースが発生することもあるでしょう。

このように、相談なしに相続放棄すると、トラブルが発生し相続人同士の関係が悪化する可能性があります。相続放棄する場合は、負の遺産がないか、次の相続人は誰かなどを確認し、相続人同士できちんと話し合った上で行うようにしましょう。

 

4-2.相続放棄の手続き方法

相続放棄の手続きをするために、被相続人が最後に住んでいた地域の家庭裁判所に申述を行います。申述の際には、以下の書類が必要です。

  • ・相続放棄の申述に必要な書類
  • ・被相続人の住民票除票又は戸籍附票
  • ・申述人の戸籍謄本
  • ・被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本

被相続人との関係性によっては、上記以外にも追加で書類が必要になる場合があります。提出した書類は、原本還付請求を行うことで返還してもらうことも可能です。

申述の際にかかる費用は、800円の手数料と数百円分の切手代です。申述書には800円分の収入印紙を貼り付けておきましょう。切手代は家庭裁判所によって異なるため、事前に確認が必要です。

申述をすると、2週間程度で家庭裁判所から照会書が届きます。照会書には「被相続人の遺産を処分していないか」「相続放棄の理由は何か」など複数の質問が記載されているため、回答を記入して返送しましょう。

相続放棄の審査には1~2か月程度かかります。家庭裁判所で受理されると、「相続放棄申述受理通知書」が届きます。

なお、相続放棄できる期間は、被相続人が亡くなり、自分が相続人であることを知った日から3か月以内です。3か月を過ぎると相続放棄できなくなり、自動的に相続を承認したことになります。遺産に借金があるなどで相続したくない場合は、早めに手続きを行うようにしましょう。

出典:最高裁判所「相続の放棄の申述」

 

4-3.相続放棄せずに借地権を手放す方法

借地権以外の財産を相続したいときなどは、借地権を相続した上で転貸したり売却したりする選択肢もあります。

借地権を転貸すれば収益を得られるため、相続放棄するより得になる場合があります。建物のリフォームなどを行う場合は修繕費がかかりますが、長期的に見てプラスになりそうなら転貸を検討してみましょう。

借地権を売却する場合は、以下のようなさまざまな方法があります。

・売買仲介で売却する

不動産会社に仲介してもらい、第三者に借地権売却できます。ただし、成約までに時間がかかる場合があります。

・不動産買取で売却する

不動産会社に借地権を売却する方法もあります。査定価格は低くなりますが、時間をかけずに売却できます。

・底地と建物をセットで売却する

地主と協力して底地と建物をセットで売却すれば、個別に売るよりも需要が高く、高値で売却できます。

・地主に売却する

借地権は地主に売却もできます。地主が借地権を必要としていないか確認し、買取を交渉してみましょう。

借地権の売却方法とは|売却の流れや借地権の相場も解説

なお、転貸にも売却にも地主の許可が必要です。手間や費用が発生するため、よく検討してから決めるようにしましょう。

 

まとめ

借地権の相続に地主の許可は不要ですが、良好な関係を保つために報告は必ずしておきましょう。もし地主から相続に伴って地代の値上げや承諾料の要求があっても、基本的に応じる必要はありません。借地権の相続をめぐるトラブルは多いため、巻き込まれないようにトラブルを防ぐ方法をよく確認しておきましょう。

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この記事の監修者

松原 昌洙マツバラ マサアキ

代表取締役 /
宅地建物取引士

CENTURY21中央プロパティー代表取締役。静岡県出身。宅地建物取引士。都内金融機関、不動産会社を経て2011年に株式会社中央プロパティーを設立。借地権を始めとした不動産トラブル・空き家問題の解決と不動産売買の専門家。主な著書に「[図解]実家の相続、今からトラブルなく準備する方法を不動産相続のプロがやさしく解説します!」などがある。

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