地主とは?こんな借地人は嫌われる!具体例で紹介|借地権の基礎知識
地主とは?こんな借地人は嫌われる!具体例で紹介
目次
この記事では「地主」について、その歴史や昔と現代との違いを取り上げました。借地人なら知っておいて損はない「地主と良好な関係を築くためのポイント」も解説しています。
1.地主ってどんな人?
はじめに、地主とはいったいどんな人を指すのか確認しましょう。次に地主の歴史について、法令によって「土地所有者=地主」が発生したタイミングから現代までを解説します。
1-1 地主とは
地主とは、所有している土地を貸して地代収入を得る人です。正式には底地権者といい、小さい面積であっても土地を貸して地代を得ていれば地主です。一方で、おおむね1,000坪以上の土地を所有する地主を大地主といいます。
ひと口に地主といっても、土地を代々先祖から受け継いできた地主もいれば、一代で財を成した地主もいるのです。土地を持っているからこそ地主であり、土地を手放せば“ただの人”とはよく言ったもので、地主は土地を持ち続けることを商いとしています。
地主から土地を借りている人を借地人といい、昔は地主と借地人は顔を合わせる近い関係にありましたが、現代ではその関係性も変化しました。また、地主は昔は地代収入のみで生計を立てていましたが、現在はほかにも仕事を持っている人が多くなっています。
地主とはどのような人か、下図にまとめましたのでご確認ください。
(図1_地主とは)
1-2 地主の歴史
ここでは、土地を代々受け継いできた昔ながらの地主について、その歴史を紐解き、現代までを解説します。
「土地の所有」がはじまったのは縄文時代の末期です。稲作がはじまり、土地を管理・支配する者が現れました。以降、近代に至るまで土地管理の方法や所有者は時代とともに変わります。そして、明治時代の地租改正や農地改革によって、現代につながる「土地の所有権」が発生しました。
それでは地租改正と農地改革について、次項から詳しく解説します。
1-2-1 地租改正(1837年)
地租改正とは明治政府が明治6年に交付した法令で、土地所有者が所有地の地価の3%を毎年現金で納税すると定めたものです。
地租改正の前年に、税を納付させる準備として政府は土地所有者に土地の場所、面積などを記した地券と呼ばれる証明書を交付しました。土地の所有者の明示で「地主」が生まれ、明治11年ごろに土地所有権は確立します。
また、それまで禁止していた土地の売買を自由に行えるようにしました。地価の3%は非常に高額で、支払えない貧しい地主は土地を手放していき、経済力のある地主が所有地を増やします。裕福な地主はやがて金融業に手を付けさらに資金を増やしていきます。
そして力を持った大地主は商工業などへの投資で資本家となり、政府に対しても影響力を持つようになっていきました。
1-2-2 農地改革(1946年)
一部の地主に富が集中する状況を一変させたのは、戦後のGHQによる農地改革です。
マッカーサーは地主から所有地を買い上げ、土地を借りて農業を営んでいた小作人(小作農)に安く売り渡しました。農地改革は資本家でもある大地主の力を奪う目的もあったため、農地を多く所有していた地主のほとんどが没落します。
土地を得て、自分の土地で農業を営む自作農となった小作人もいる一方、得た土地を手放す小作人もいました。このような土地を資産のあるものが買い占め、農作や宅地で使用するようになっていきます。戦後のインフレによる地価の高騰で、戦後の土地持ちが新たな地主として資産を増やしていったのです。
1-3 地主の現代
昔、地主は借地人にとって大家であるとともに、身近で頼れる存在でもありました。地租改正で土地所有権が発生しても、当時は土地の資産価値は高いものではなく、地主は余っている土地を気軽に貸し出しました。
地域社会のリーダー的存在でもあったでしょう。戦後の混乱期には、戦争で住む場所を失った人に土地を貸したりもしています。旧借地法も、立場が弱く経済的にも不利な借地人を手厚く保護しました。
地主は自分の所有地に住んでおり、借地人とは隣人のような関係を築いていきます。しかしその後の高度成長期に地価が高騰し、それまで価値の低かった土地の認識も変わっていきました。
昭和30年代ごろまでは、地主と借地人は地代の支払いで毎月会い、お中元やお歳暮のやりとりをしていました。しかし、銀行の仕組みが発達し地代の支払いが振込に変わっていくと、顔を合わせる機会が減ります。
借地や借家の管理を生業としていた地主も、やがて別の仕事にも携わるようになっていきます。親密だった地主と借地人の関係は、徐々に疎遠になっていったのです。
旧借地法は借地人にあまりに有利だったため、地主による土地の貸し渋りがおき、土地が有効活用しにくい状況になっていきます。1992年には地主の権利を守る目的で借地借家法が制定されました。
しかし、現在も旧借地法での契約が多く、更新時の新法への切り替えも義務ではないため、借地人に有利な契約が多いのが現状です。
昔と現代の地主を比較したものをまとめると以下の表に示す通りです。
(図2_昔と現代の地主の比較)
2.借地人は注意!地主に嫌われるポイント
昔と現代では、地主と借地人の関係性も変わりました。生活に密着した深い関係から、単に賃貸借契約を結んだだけの他人へと変化しました。しかし地主とは、可能な限りよい関係を保ったほうがよいでしょう。
なぜなら借地権を所有していても、借地人は原則賃貸借契約書の定めに従う義務があるからです。関係性が希薄になったからといって、関係を放棄したり悪化させたりしてしまうと、のちのち苦労するでしょう。
ここでは、地主との関係を悪化させないために避けるべきポイントを解説します。
2-1 地代の滞納
地主に嫌われるポイントの一つ目は「地代の滞納」です。
地代の未払いは地主と借地人の間で最もよく起こるトラブルです。一般的に地代の利回りは低く、自分の資産を長期にわたり安く貸している感覚がベースにあります。そのため地代の滞納は、大いに地主の気分を害してしまう可能性があります。
2-2 更新料を払わない
地主に嫌われるポイントの二つ目は、借地権の「更新料の不払い」です。
前提として、借地権は賃貸借契約書に更新料の支払いが明示されている場合を除いて、更新料の支払い義務はありません。しかし割安な地代で土地を貸している地主にとって、更新料は地代が安い分の補填といった位置づけとも考えられます。「更新料はもらって当然」と考える地主がほとんどです。
借地権の更新料は、土地の更地価格の3%が相場です。2,000万の土地であれば、60万となります。高額なため、支払い義務がないなら払いたくないと借地人は思うでしょう。
しかし義務ではないからと安易に支払いを拒否すると、その後の関係性の維持が難しくなる場合もあるのです。
2-3 増改築等の契約違反
地主に嫌われるポイントの三つ目は「増改築等の契約違反」です。
借地上に自分で建てた家であっても、増改築する場合は原則、地主の承諾が必要です。多くの場合「建て替えや建物の構造を変えるような大幅な改築は地主の許可が必要」といった特記事項が契約書内に記載されているためです。
自分の家だからと地主の許可なく契約に違反した場合、契約不履行で借地契約を解除され立ち退きを求められるケースもあります。地主と借地人は、土地賃貸借契約を結んでいます。契約内容が守られないと、地主は「契約や自分が軽く扱われている」と感じてしまいます。
契約書が存在しない場合にも、増改築したい場合は、必ず地主に確認しましょう。
3.地主と良好な関係を築くメリット
2章では地主に嫌われないためのポイントを解説してきました。借地人は借地権があるのに、地主に尽くす必要があるのかといった気持ちも生じてしまうでしょう。
しかし地主と良好な関係を築くのは、借地人にとって多くのメリットがあります。一つずつ確認していきましょう。
3-1 トラブルが発生しにくい
地主と借地人は立場の違いはあるものの、お互いに感情を持った人間です。関係を悪化させてしまうと、「契約更新しない」と立ち退きを要求されたり、明らかに高すぎる地代の値上げを告げられたりといったトラブルにつながります。
そのほかにも、相場よりはるかに高い更新料や譲渡承諾料を要求されるケースもあります。地主の個人的な感情による嫌がらせや理不尽な要求は、借地権において少なくないのです。
土地は生活の基盤のため、土地に関わるトラブルは借地人やその家族を疲弊させてしまいます。借地人は自分の行動がトラブルの火種とならないよう、地主の立場を思いやって良好な関係を維持しましょう。
3-2 借地権の価値が上がる
二つ目のメリットは「借地権の価値が上がる」ことです。
地主と借地人の関係性は、借地権の価値にも影響します。借地権は売却できますが土地の用途が限られているため、買い手がみつかりにくい場合もあるでしょう。さらに地主とのトラブルがあると、売却先が見つかりにくい上に取引金額も下がってしまいます。
売却には地主の承諾が必要なため、良好な関係を築いていれば承諾もスムーズに得られます。地主が快諾するケースであれば、売却先や取引先も安心して取引ができます。結果的に借地権の価値も上がるでしょう。
借地人が自ら所有する借地権を有効活用したり、適正価格で売却したりできるのは、地主との“良好な関係”が前提にあるといえるでしょう。
3-3 融通が利きやすい
三つめが、「融通が利きやすい」です。
例えば借地上の建物が古くなって建て替えをする場合は原則、地主の許可が必要です。地主との良好な関係が築けている場合、社会通念上の範囲内であれば許可してくれるでしょう。
関係が悪ければ、理不尽な理由で許可を渋る地主もいます。許可が得られなくても、裁判所に申し出れば建て替えできる可能性はあります。しかし、すんなり地主から許可を得るのに比べ、手間も時間もかかるうえ、心身にかかる負担も大きくなります。
借地権は利用に関して地主の許可が必要なケースが多いため、関係悪化は借地人にしわ寄せがきてしまうのです。
4. 地主と良好な関係を築く方法
借地権を持ち続ける限り、地主との関わりは継続し長期になります。良好な関係を維持するためには、地主と借地人の双方の歩み寄りが必要です。
ここでは、借地人が地主と良好な関係を築く方法を3つご紹介します。
4-1 契約内容を把握する
一つめは「賃貸借契約の内容を把握する」です。
賃貸借契約書には、地代や支払い方法・契約期間などの基本情報に加え、禁止事項や特約事項なども記載されています。地主の許可が必要な事項も明記されており、契約内容を借地人が把握しておけば防げるトラブルもあります。
多くの場合、建て替えや大規模な修繕は地主の承諾を得るなどの条件が定められています。中には「建物の階数」「延べ床面積」など、定義が細かいケースもあります。「この修繕なら大丈夫だろう」といった思い込みで勝手に建物に手を加えると、トラブルが生じやすくなります。
借地人は、契約違反で自身がどう不利になるかを把握するためにも、借地権に関する最低限の知識は備えておきましょう。
契約書がない場合でも、口頭で契約内容を確認し、地主と認識合わせをしましょう。
4-2 地代を滞納しない
二つめは「地代は滞納しない」です。
借地権は借地人を手厚く保護しますが、地代を払わなければその権利は維持できません。地代の不払いが続けば、地主は借地人との契約解除に動き出すでしょう。
なぜなら、地代を請求できる権利には期限があるためです。これは「消滅時効」といい、地代の請求の権利は5年間です(民法166条)。契約解除となれば、借地人は自分の資産で建てた建物を撤去したうえで立ち退かねばなりません。
地主との信頼関係を維持するために、地代をしっかり払い続けるのが重要になります。
地代の滞納から明け渡しまでの流れを、以下の図で確認しましょう。
(図3_地代滞納~明け渡し請求まで)
関連記事:【弁護士Q&A】地代を滞納したら契約解除になるのでしょうか
4-3 挨拶や丁寧な対応を心がける
三つめは「挨拶や丁寧な対応を心がける」です。
地主だからといって特別な対応をする必要はありません。仕事で関わりがある人に接するようにやりとりしましょう。顔を合わせれば挨拶をする、丁寧なコミュニケーションをとるといった一般的な対応です。
また、借地について不安要素があれば、些細な問題でも地主と事前に相談しましょう。「これくらいならいいだろう、バレないだろう」といった自己判断はよくありません。
特に増改築など建物に変更を加える場合は、契約違反にならないと想定されるケースでも必ず事前に相談しましょう。
まとめ
地主は自分の土地を他人に貸し出し、地代を得ています。昔は地主と借地人とは隣人のような関係でした。年末年始の挨拶などは欠かさず、多くのコミュニケーションを取る関係が築かれていました。
しかし現代においては、地主と借地人の関わりは希薄になっています。そのためコミュニケーションがうまく取れず、関係をこじらせてしまうケースも少なくありません。
地主との良好関係は、借地にかかわるトラブルの予防など多くのメリットがあります。借地人はきちんと賃貸借契約の内容を把握したうえで、地代を滞納せず、挨拶や丁寧な対応を心がけましょう。
地主との関わり方で不安がある方は、ぜひ中央プロパティーにご相談ください。数多くの借地にまつわるトラブル対応の経験から、最適なアドバイスをいたします。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。東京弁護士会所属。常に悩みに寄り添いながら話を聞く弁護方針で借地非訟手続きや建物買取請求権の行使など今社会問題化しつつある借地権トラブル案件を多数の解決し、当社の顧客からも絶大な信頼を得ている。