借地権と配偶者居住権|借地権関連|法律・税金

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借地権と配偶者居住権

配偶者居住権とは

夫(被相続人)が亡くなり妻(相続人)が配偶者居住權(自宅)とその他の財産を取得。別居中の長男(相続人)が自宅土地所有権とその他の財産を取得。を説明する図

配偶者居住権とは、「被相続人の配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合に、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をすることのできる権利」のことです。
平成30年の民法改正で新たに設けられた制度で、配偶者はその自宅の権利を相続していなかったとしても、その自宅に住み続ける権利を得ることができます。

(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

引用元: より

(配偶者居住権の存続期間)
第千三十条 配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

引用元: より

従来、相続財産が自宅以外にないケースでは、残された財産を相続人同士で分割するために、配偶者が自宅を売却し、現金に換価しなければならないという状況が生じていました。また相続財産の自宅を「配偶者以外の者に相続させる」との遺言があった場合は、その第三者から立ち退きを求められれば、配偶者は立ち退かなければならないこととなっていました。

いずれの場合であっても、配偶者は住み慣れた自宅を離れなければなりません。配偶者居住権の制度は、このような事態が生じないように新設されたものです。配偶者居住権を取得するには登記の手続きをしておく必要があります。

同じタイミングで配偶者居住権の他にもうひとつ、配偶者短期居住権という制度も新設されました。
配偶者短期居住権は要件に該当する場合には当然に発生するため、特別なにかを設定しておく必要はありません。配偶者は、相続開始の時、被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、一定期間(最低でも6ヶ月間)は、引き続き無償でその建物に居住することができます。

(配偶者短期居住権)

第千三十七条 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。

一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日

二 前号に掲げる場合以外の場合 第三項の申入れの日から六箇月を経過する日

2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。

配偶者短期居住権:配偶者は遺産分割協議の成立までの期間、無償で自宅に住み続ける事ができる。自宅の所有者は未定。|『遺産分割協議成立』後→|配偶者移住権(長期居住権):配偶者は遺居住権を得る事で自宅に住み続けることができる。預貯金などのざいさんも分割できる。自宅所有者は息子となる。

設定した方がいいケース、しない方がいいケース

配偶者居住権に関しては設定するもしないも自由ですが、自宅不動産以外に相続財産がない場合は設定しておいた方がよいでしょう。
また他に相続財産として預貯金等がある場合であっても、例えば子どもが自宅の所有権を相続し、残された配偶者は配偶者居住権と現預金を受け取る、といった形をとることができれば、配偶者の生活が安定する可能性が高まります。

逆に、自宅不動産に長く住むつもりがない場合は設定しない方がよいでしょう。例えば、老人ホームに入る予定がある場合にまで配偶者居住権を設定してしまうと、法律関係を煩雑にしてしまうだけです。
配偶者居住権を設定しなくても配偶者短期居住権が認められるため、一定期間は引き続き居住することができます。新しい生活を始めるための準備をする期間は十分にあるでしょう。

配偶者居住権を設定するには

配偶者居住権は、1. 遺産分割、2. 遺贈・死因贈与、3. 家庭裁判所の決定 のいずれかによって成立します。配偶者短期居住権と違い、相続開始により当然に生じる権利ではない点には注意が必要です。上記1~3によって、権利が与えられなければなりません。
また、居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。

(配偶者居住権の登記等)

第千三十一条 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。

登記は第三者対抗要件として重要な手続きです。登記がなければ第三者に対して自己の権利(ここでは配偶者居住権)を主張することができません。配偶者居住権の設定登記は、配偶者居住権者(登記権利者)と建物所有者(登記義務者)が共同で申請する必要があります(共同申請の原則)。

また、前提となる相続登記が必要になる点は注意が必要ですが、相続登記と配偶者居住権の設定登記は「同時」に申請することも可能です。

配偶者居住権は譲渡・売却できない

配偶者居住権は、相続が発生した時に自宅に住んでいた配偶者にだけ認められる権利です。例え家族であっても、譲渡することはできず、当然第三者に売却することもできません。一度設定してしまうと、配偶者は住み続けるしかないのです。

「老人ホームに入居するから自宅を売りに出したい」と思っても、配偶者自身が持つのは、所有権ではなくあくまで居住権であるため、自宅を売却することはできません。
自宅の所有権を持つ人間と共同でなら譲渡・売却を行うことも可能ですが、配偶者居住権がついている建物は利用が制限されてしまっている(買い取っても住むことができない)ため、市場における価値は低くなりがちです。

配偶者居住権を設定する場合には、上記のような点も考慮し、慎重に設定するとよいでしょう。

この記事の監修者

岡田 卓巳オカダ タクミ

弁護士

弁護士。早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。地代滞納、建物明け渡しなど借地権・底地権の案件へ積極的に取り組む。主な著書に「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」「遺言書作成遺言執行実務マニュアル」など。

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