【弁護士監修】借地権にまつわる地主とのトラブルと解決策を解説|借地権のトラブル
【弁護士監修】借地権にまつわる地主とのトラブルと解決策を解説
目次
「建物を売却したいが、地主に反対されている」
「地主から立ち退きを要求されて困っている」借地にお住まいの方で、地主とのトラブルで悩まれるケースは少なくありません。借地人と地主の関係性は、「借地借家法」の土台の上に形成されています。今も昔も借地人と地主の間では、さまざまな揉め事が起きてきました。特に借地人または地主に何らかの変化があったタイミングで、問題が発生するケースが多いといえます。この記事では、借地権にまつわる地主とのトラブルを取り上げています。地主の持つ権利・責任や、借地人との関係性について触れながら、トラブルの具体例を解説しました。加えて、借地権を多く扱ってきた中央プロパティーならではの、地主とのトラブルに役立つ3つの解決策もご提案しています。ぜひ最後までご覧いただき、地主との関係改善やトラブル解決に役立ててください。
1.借地権のトラブルとは
借地権で起こるトラブルを知るには、借地権とは何かを知る必要があります。また、地主のもつ権利や責任を把握した上で、借地人と地主の関係性について確認していきましょう。
それでは、一つずつ解説します。
1-1 借地権とは
借地借家法における借地権とは、借地人が地代を支払うことで第三者(地主)から土地を借り受け、建物を建てる権利です。
借地権は土地を借りた時期により従う法律が異なるのもポイントです。平成4年8月より前に締結された契約は借地法(旧法)、それ以降に締結された契約は借地借家法(新法)が適用されます。
借地権は、借地人と地主の双方に、土地利用においてメリットともいえる特徴があります。
借地人にとってのメリットとして、土地の購入は大きな費用がかかりますが、借りるのであれば月々の地代だけですみます。
さらに、土地分の固定資産税や都市計画税を納める必要がありません。また、借地権付き建物は市場価格の7~8割の価格で購入できるため、土地と建物を含む所有権の不動産を購入するよりも安価なコストで住宅の取得が可能です。
普通借地権の場合、契約当初が30年、地主と合意の上での初回更新後20年と長期間借りられます。
地主は、収入として毎月一定の地代を得たり、更新時に更新料を得たりできます。また、更地をそのままにしておくより、土地上に建物を建てることで固定資産税の負担が6分の1で済むため、税制面での優遇が受けられるというメリットがあります。
関連記事:借地権とは?
1-2 地主とは
では、地主は貸し出した土地に対してどのような権利や責任を持つのでしょうか。
地主の持つ権利は所有権です。所有権は、土地の使用・賃貸・売買・相続や贈与など制限を受けずに自由に行えます。
一方で、所有者として税金の負担義務や責任も生じます。借地として土地を貸した場合、土地を利用させる義務が生じます。そのため、土地を利用できるよう修繕などをしなくてはなりません。
また、豪雨により土地の一部に土砂崩れなどが起きた場合、それらの修繕は地主の義務になります。
借地人が土地を利用するために必要な工事等の負担も地主が負います。建物を建てる上で地盤の改良工事が必要であれば、地主の負担となるでしょう。
さらに、借地人が行った工事により土地の価値が上がれば、たとえ地主が許可していない工事であっても工事費用の負担が生じます。
1-3 借地人と地主の関係性
それでは、借地人と地主の関係性について、双方の立場から解説していきます。
まず借地人側の立場で考えると、地代として相当額を支払っているため「借りてあげている」認識があるといえます。
しかし、地主と結ぶ賃貸借契約には「建物の増改築には地主の承諾が必要」などの条件が含まれているケースが多いのです。
自分のお金で建てた建物の増改築でも地主の承諾が必要なため、借地人としては釈然としない気持ちになるかもしれません。また、更新料が高い場合「そもそも払う必要があるのか?」といった疑問が生じるでしょう。
次に地主側の立場で考えてみます。
地主からすると、土地は貸しているだけであくまで自分名義の財産です。地代は一般的に利回りが低く、地主にとっては「自分の財産を安く貸している」という認識があります。安く貸しているのだから「更新料はもらって当然」といった思いもあるかもしれません。
このように、借地人と地主双方の認識の違いから、トラブルが生じるケースも多いでしょう。
借地人と地主の関係性について、以下に図解します。
借地権は30年以上といった長期契約のため、途中で借地人や地主が代替わりする場合もあります。
土地を貸し出した経緯には借地人と地主がもともと知り合いであるなど、先に人間関係が構築されていたケースも多いでしょう。しかし、代替わりがあるとこれまで築いてきた関係がリセットされます。
信頼関係が薄い状態で生活の基盤である土地に問題が生じると、揉め事に発展しやすくなるのです。
2章では、地主とのトラブルについて解説します。
2.地主とのよくあるトラブル
借地権における地主とのトラブルについて、よくある5つのケースについて解説していきます。
それぞれ確認していきましょう。
2-1 地代の増額を請求された
トラブルになりやすいケースの一つめは、地主から地代の増額請求です。
地代など、住宅に関わる費用は生活費の中で大きな割合を占めます。借地人にとって地代の増額は避けたいものでしょう。
一方、地主としては、低い利回りで安く貸しているのだから、少しは地代を上げたい気持ちも生じます。しかし、借地借家法により、増額請求ができるのは以下のケースと定められています(地代等増減請求権)。
- 土地の税金(固定資産税や都市計画税など)が増額した
- 地価の上昇や、物価があがるなど経済状況が変わった
- 近隣の類似条件の土地に比べ地代が安い
条件に該当しない場合、借地人は増額請求を拒否できます。
一方、正当な事由での地代の増額の場合、半年や1年などの期間ごとの段階的な値上げの実施を打診される場合もあるでしょう。
裁判所の調停が介入する場合は、増額の正当性が判断されます。
2-2 立ち退きを要求された
二つ目は、借地人が地主から「土地を返してくれ」と、立ち退きを要求されたケースについて解説します。
まず、土地などの賃貸借契約は、一般的には継続が前提となっています。借地権は、借地人が家を建てる権利です。地主の都合でいつでも追い出される状態では、権利が守られているとはいえないためです。
とはいえ、地主から立ち退き要求がくることはあるでしょう。タイミングはさまざまですが、例えば相続で借地権が親族へ承継される場合にです。地主と故人との信頼関係がベースにあれば、一つの区切りとして「貸した土地を返してくれ」と、立ち退きを求める場合も考えられます。
また、地主が土地を売却し地主が変わってしまえば、新地主によって立ち退きを求められる場合もあるでしょう。
その他、期間満了による契約更新時も立ち退きを要求されるタイミングの一つです。
しかし、このように平穏な生活を脅かされるような、地主の一方的な理由で立ち退き要求に応じる必要はありません。立ち退きを求めるには以下のような正当な事由が必要です。
- 周辺の土地が再開発により、多くの住人が立ち退いている
- 地主がその場所に家を建てて使用する必要がある
- 借地人が長期にわたり建物を使用していない
また正当な事由があっても、契約更新の時期以外での立ち退きは、裁判においても認められない可能性が高いです。
立ち退きには立退料が支払われるのが一般的です。立退料を得ても、さまざまな事情から立ち退きをしたくない借地人もいるでしょう。そのため、トラブルになりやすいケースだといえます。
2-3 更新料を請求された
三つ目は、地主から更新料を請求されたケースです。
賃貸借契約の更新時や、相続で借地権を得たタイミングで更新料を請求される場合があります。結論から言えば、更新料は、賃貸借契約書に支払いに関する定めの記載がなければ払う義務はありません。
但し、賃貸契約書に更新料に関する定めがない場合でも、過去の更新時に双方合意の上、更新料を支払った実績がある場合は、更新料の支払い義務が発生します。
更新料の相場は更地価格の3%程度とされています。
例えば3,000万円の土地では、3%でも90万にもなります。更新料は高額なため、トラブルになりやすいのです。地主との関係維持のために、更新料を支払う借地人は多い傾向にありますが、負担に感じる場合、価格を交渉してみるのもよいでしょう。
2-4 売却を許可してもらえない
四つ目が、借地権付き建物の売却を地主が許可しないケースについて解説します。
例えば、借地上に建てた家を親から相続した子が売却を検討したとします。まず、借地権が借地人の判断だけで売却できるかは、借地権の種類によります。借地権は、賃借権と地上権の2つに分類されます。
借地権(賃借権・地上権)を、図示すると以下の通りです。
賃借権は、他人が所有している土地に住宅を建てて住むことを請求できる権利です。地主の許諾を得ないと、建物の建て替えや売却は行えません。
地上権は、他人の所有している土地について、使用する権利と共に建物の売却や担保の設定が可能な権利です。地上権は所有権に近い強い権利を持ちますので地主の許可なく建て替えや売却が可能です。
賃借権か地上権のどちらであるかは、賃貸契約書に記載されていますが、地上権の場合、契約書がないことが多いのでよく確認が必要です。
しかし、スムーズに地主の承諾を得られない場合もあります。例えば、地主が借地権の売却先の人柄や資産状況などに不安を持っていれば、承諾が得られず難航する場合もあるでしょう。
2-5 建て替えを許可してもらえない
最後に、借地上の建物の建て替えや大規模リフォームを許可してもらえないケースです。
建物の建て替えや大規模なリフォームを検討する場合、まず賃貸借契約書の内容を確認する必要があります。
借地契約では、一般的に賃貸借契約書で「建て替えや大規模リフォームには地主の承諾を得る必要がある」といった特約が定められています。
契約書上に、建物の延べ床面積や、地上2階など階数まで細かく定められているケースも多いです。
建物は借地人が自らの財産で建設したものですが、建て替えや大規模リフォームは地主の承諾なく実施できません。老朽化による建て替えが拒否されてしまうと、雨漏りなどがおきて生活に支障がでてしまいます。
しかし、無断で建て替えた場合、契約不履行によって土地賃貸借契約を解除され、立ち退きを要求される事態につながる可能性があり、注意が必要です。
地主の求める建て替え承諾料を支払うことによって承諾を得るケースがほとんどです。
※建て替え承諾を「増改築承諾」とも言います
建て替え承諾料は更地価格の5%程度が相場です。例えば更地価格が3,000万円であれば、150万円ほどですので、更新のタイミングと建て替えのタイミングが重なると各承諾料の負担が発生します。
3.トラブルの解決方法
借地人と地主の間には、借地権に絡むさまざまなトラブルが起きてしまいます。それでは、借地人はこれらの問題をどのような方法で解決していけばよいのでしょうか。
ここでは、トラブルの解決方法をご紹介します。
3-1 専門家へ相談する
一つ目は、専門家への相談です。コストや時間をかけずに独力で解決できるのが望ましいですが、ある程度交渉を重ねても進展が見られない場合、専門家へ相談するのがよいでしょう。
多くの地主は、多数の不動産を所有しており、不動産に関する知識が豊富です。借地人は不動産知識に乏しい場合が多く、交渉が不利になりかねません。
不動産の問題は法律の知識に加え、過去の類似ケースの解決事例を知っているかもポイントです。借地権のトラブルに強い弁護士に相談し、解決への道筋を探りましょう。
3-2 借地権を手放す
二つ目の方法は、借地権の売却です。地主との関係が悪化した場合、そのまま住み続けてもまた別のトラブルが生じる可能性もあります。借地権を手放し、地主との関係を切ってしまうのもよいでしょう。借地権は、地主に買い取ってもらうか第三者への売却になりますが、いずれも、売却には地主の意思決定が伴います。借地権を手放す相談は、専門に扱う不動産会社に相談しましょう。借地権に強い弁護士がいる不動産会社なら、いっそう心強いでしょう。
3-3 借地非訟をおこなう
三つ目が、借地非訟による解決です。
借地非訟は、借地人が売却や建物の建て替えや大規模リフォームを実施したくても地主が承諾しない場合などに利用できる手続きです。
土地の使用は賃貸借契約書に細かく規定されており、多くのケースで建物の建て替え・大規模リフォームなどは地主の承諾が必要です。
地主がこれらを承諾しない場合、借地人は裁判所に借地非訟の申し立てができます。裁判所では借地人と地主双方に聴取を行い、客観的な判断のもと承諾か拒否を示します。借地人は地主の代わりに裁判所の承諾を得て、売却や建て替え等を実施できるのです。
借地非訟での三者(地主・借地人・裁判所)の関係図は以下の通りです。
関連記事:借地非訟とは?手続きや費用、メリット・デメリットについて解説
最後に、この記事のまとめです。
まとめ
借地権とは、第三者から土地を借り、建物を建てる権利です。地主は土地の所有権を持ち、借地人は借地権(多くの場合、賃借権)を持ちます。
よくある地主とのトラブルを5つのパターンで紹介しました。
- 地代の増額を請求された
- 立ち退きを要求された
- 更新料を請求された
- 売却を許可してもらえない
- 建て替えを許可してもらえない
これらの解決方法として、専門家へ相談する・借地権を手放す・借地非訟をおこなうの3つを提案しています。地主との交渉が難航した場合、まずは専門家へ相談しましょう。
当事者同士だと感情的になってしまい、事態を悪化させる可能性があるからです。専門家が第三者の立場で関われば、早期かつ穏便に解決できるケースもあります。
中央プロパティーは、借地権にまつわる問題解決も得意としています。借地権問題に詳しい弁護士もご紹介できますので、地主との関わりでお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。