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相続人が知っておきたい借地権相続時の確認ポイント

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作成日:
コンテンツ番号:14138

相続人が知っておきたい借地権相続時の確認ポイント

借地権を相続したら、地主への報告や登記名義人の変更など、対応すべきことが多くあります。面倒だからといって対応を放置してしまうと、地主とのトラブルや相続人同士のトラブルに発展するケースも少なくありません。

そこで本記事では、借地権を相続した場合に必要な手続きや押さえておきたい注意点を解説します。借地権をトラブルなく相続したい方、そもそも借地権を相続したくない方は、ぜひ参考にしてください。

<この記事でわかること>

  • 借地権の活用で地主の許可がいるケース
  • 借地権の相続時に必要な手続き
  • 借地権の相続時の注意点
  • 借地権の相続でよくあるトラブル

1. 借地権相続時の5つの対応ポイント

借地権相続時に把握しておくべき5つの対応ポイントは次のとおりです。

  • 被相続人が死亡したことを地主に報告する
  • 登記簿を取得し権利関係を確認する
  • 遺産分割協議をおこなう
  • 地主承諾の必要性を確認する
  • 登記の変更をおこなう

それぞれ、なぜ必要なのかといった理由を含めて解説します。

1-1 被相続人が死亡したことを地主に報告する

まずは、借地人である被相続人が死亡したことを、地主に報告します。借地権を相続する場合、地主の承諾は不要で、報告のみで構いません。

ただし、借地人である被相続人が亡くなった場合、借地契約は相続人が引き継ぐことになり、借地契約を終了しない限り、継続して地代の支払いも必要になります。そのため、地主と良好な関係を築くことは相続人にとって大切なことです。

しかし、相続をきっかけに借地人と地主との関係がこじれるケースも珍しくありません。

借地権を相続した場合、詳しい契約内容などを相続人が把握していないことも珍しくありません。可能な限り、被相続人の死亡を報告するときに、地主と地代や契約期間など契約内容について確認しておきましょう。契約内容は「土地賃貸借契約書」と呼ばれる契約書に記載されています。

契約書をもとに借地人と地主との間で認識を合わせておけば、相続をきっかけに生じやすいトラブルが防げます。

もし「土地賃貸借契約書」が見つからない場合には、以下の記事を参考にして対応してください。

1-2 登記簿を取得し権利関係を確認する

借地権は土地や建物そのものではなく土地を借りて建物を建てる権利ですが、相続の対象になります。相続は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するものだからです(民法第896条)。

借地権を相続したら、不動産全部事項証明書(登記簿謄本)を取得して権利関係を確認しておきましょう。後述(1-3)する遺産分割協議をするためにも、不動産全部事項証明書できちんと権利関係を確認しておく必要があります。

なお、不動産全部事項証明書(登記簿謄本)を取得するのは、土地と建物どちらともです。土地は権利部(乙区)に賃借権者(借地人)についての記載があり、建物は権利部(甲区)に所有者の記載があります。

1-3 遺産分割協議をおこなう

相続人が2人以上いる場合は、誰が相続するか決めなければ、そのまま相続人全員で借地権を共有する準共有状態になってしまいます(民法第898条第1項)。詳しくは後述しますが、相続後に借地権を共有のままにすることはおすすめできません。

もとの借地人(被相続人)が遺言を残していた場合は原則として遺言のとおりに、遺言がなければ相続人全員で遺産分割協議をおこないます。

遺産分割協議で借地権について誰の単独所有とするかなどの話がまとまったら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名と実印で捺印します。

1-4 地主承諾の必要性を確認する

借地人が亡くなり自身が借地権を取得することになっても、それが相続と遺贈どちらによるものかによって、地主の承諾が必要かどうかも変わります。

相続は、亡くなった人の権利義務が相続人に承継されるもの(民法第896条)です。遺贈は、亡くなった人の遺言によって、相続人に限らず無償で誰かに財産を移転させる法律行為(民法第964条)をいいます。

遺贈は、死亡と同時に相続人でない人に財産を移転できる点が特徴です。

相続なら地主の承諾は不要ですが、遺贈の場合は地主の承諾が必要です(民法第612条第1項)。なお、遺言で借地権を取得した人が法定相続人なら、地主の承諾は不要です。

遺贈について地主から承諾を得ようとするとき、地主から譲渡承諾料(名義書換料)を請求される場合があることも把握しておきましょう。また、地主から遺贈の承諾を得られないときは、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求めることも可能です(借地借家法第19条)。

借地権の遺贈に関しては以下の記事も参考にしてみてください。

もちろん、承諾が不要な相続の場合も、地主との関係性を考えると相続により借地人となったことや今後の地代の支払方法について共有しておくことが欠かせません。

1-5 登記の変更をおこなう

相続でも遺贈でも、借地人・建物の所有者が変わった場合は所有権移転登記が必要です。相続の場合は「相続登記」、遺贈の場合は「遺贈による所有権移転登記」と呼ばれます。

借地権の相続人(単独所有者)が確定したら、登記所(法務局)に所有権移転登記の申請をします。ただし、手続きに慣れておらず自分でおこなうのが困難な場合は、司法書士に依頼することも検討しましょう。

相続登記の必要書類は次のとおりです。

<相続登記の必要書類>

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書(戸籍謄本、除籍謄本改製原戸籍謄本)
  • 相続人全員の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
  • 被相続人の住民票の除票の写しまたは戸籍の附票の写し
  • 相続人の住民票の写しまたは戸籍の附票の写し
  • 遺産分割協議書または遺言書
  • 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書を作成した場合)
  • 固定資産評価証明書

必要書類の取得にかかる手数料の目安は、下表のとおりです。市町村によって異なる場合があるので注意してください。

必要書類手数料
戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)450円
除籍謄本750円
改製原戸籍謄本750円
戸籍の附票の写し300円
住民票の除票の写し300円
印鑑証明書200円
固定資産評価証明書400円

登記にかかる登録免許税は、相続の場合、借地権は固定資産税評価額に対して0.2%、建物は固定資産税評価額に対して0.4%です(登録免許税法別表第1)。

2. 借地権相続時の注意点

借地権を相続するときは、次の点に注意しておかなければなりません。

  • 借地権には相続税がかかる
  • 相続人間で共有名義にしない
  • 借地権には地代や固定資産税がかかる

以上の注意点について、詳しく解説します。

2-1 借地権には相続税がかかる

借地権は、相続税の課税対象となる財産です。もっとも、借地権が相続税の課税対象となるのは次のいずれも満たすときといわれています。

  • 借りた土地が更地ではなく建物がある状態
  • 地代の支払いがある状態

借地権は建物の所有を目的として土地を借りる(使用する)権利ですが、建物がない場合には、借地権として評価されないケースがあります。

また、地代の支払いがなければ借地権(土地の賃借権または地上権)ではなく使用貸借権であるため、相続税の課税対象とはなりません。

2-2 相続人間で共有名義にしない

相続が発生し相続人が2人以上いる場合、誰が借地人となるのか決めなければ(分割しなければ)、相続人全員で借地権を共有することになります(民法第898条第1項)。この状態を「準共有」と言います。

しかし、遺産分割協議でとりあえず「準共有」にしておこうという考えは危険です。

なぜなら、準共有はその後に起こる共有者の相続によって、芋づる式に共有者が増え続けてしまい、権利関係が複雑になってしまうからです。

それだけでなく、借地権が準共有である場合、建物の増改築や売却するために地主だけでなく他の共有者全員の同意が必要となってしまいます。

トラブルを防ぐため、借地権は準共有にするのではなく、誰を借地人にするかきちんと決めるようにしましょう。

2-3 借地権には地代や固定資産税がかかる

借地権を相続した後、地主に支払う地代や建物について固定資産税の負担があることにも注意が必要です。

借地権を相続するとき、一般的には実家を兄弟で相談するケースが多くなっています。実家のことは親に任せっきりで、地主の顔や契約内容もわからないという相続人も少なくありません。

そもそも借地権とは何かといった概要を最低限理解しておくと、「知らなかった」を理由とする地主とのトラブルも防げます。

借地権を相続するときは、借地権の概要を少しでも理解しておくようにしましょう。

2-4 地主の承諾が必要な事項を理解する

借地権は、売却するときや転貸するとき、増改築(リフォームや大修繕)するときに地主の承諾が必要です。

相続前に親が自分のお金で建てた家なのに、売却やリフォームをすることになぜ地主の承諾が必要になるのかと疑問や不満を覚える方も少なくありません。しかし、地主から土地を借りるという契約を前提に借地上の建物は成立しているものであって、地主に無断でおこなうのは契約違反です。

地主に無断でおこなうと重大な契約違反となり、信頼関係が破壊されたとして契約の解除を要求されることもあるので注意しましょう。(民法第612条第2項)

また、地主の承諾が必要な場合には、地主から承諾料の支払いを求められることがあります。以下の表に、承諾料の相場をまとめました。借地権価格とは、借地権を売るときの価格です。

種類相場
譲渡承諾料(名義書換料)借地権価格の10%程度
転貸承諾料(又貸し)土地の時価の10%程度
増改築承諾料木造:土地の時価の5%程度
鉄筋:土地の時価の8~12%程度
条件変更承諾料土地の時価の10%程度

借地権の譲渡承諾料について詳しく知りたい方は、ぜひ以下の記事を参考にしてください。

3. 借地権を相続したくない場合

借地権を相続したくない場合には、次のような方法があります。

  • 借地権を相続放棄する
  • 相続後に借地権を売却する
  • 借地権を返還する

それぞれどのような方法なのか解説します。

3-1  借地権を相続放棄する

借地権を相続したくない場合、相続自体を放棄することにより借地権を相続せずに済みます。

相続を放棄する場合は、相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、相続放棄の申述をすることによって可能です。

申述には800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手が必要です。いくら分の郵便切手が必要かは家庭裁判所や状況によって異なるため、申述先の家庭裁判所に確認してください。

相続放棄に必要な基本的な書類は次のとおりです。他にも必要な場合があるため、家庭裁判所に確認しておきましょう。

<相続放棄の必要書類>

  • 相続放棄の申述書(家庭裁判所に様式あり)
  • 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
  • 相続放棄する人の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
  • 被相続人の死亡の記載のある除籍謄本または改製原戸籍謄本

相続放棄により地代や固定資産税、相続税などを負担する必要はなくなり、その後の借地権の管理もする必要はありません。また、遺産分割にあたって相続人とのトラブルや今後起こるかもしれない地主とのトラブルを回避できるのがメリットです。

一方で、借地権だけを選んで相続放棄することはできず、他の預貯金や不動産などの相続もできなくなるので注意しましょう。

3-2  相続後に借地権を売却する

借地権をめぐるトラブルを避けたいときは、相続の放棄のほか、相続後に借地権を売却する手段もあります。借地権は第三者に売却することも、地主に買い取ってもらうことも可能です。

第三者に売却するときは、前述のとおり地主の承諾と譲渡承諾料が必要になることは把握しておきましょう。

3-3  借地権を返還する

借地権を売却するのではなく、借地権を地主に返還する方法もあります。借地権を地主に返還するとは、借りていた土地を元通り(更地)にして地主に返すということです。

相続した後に返還するのはもちろん、相続前、つまり親などが借地人であるときにも地主と協議して返還できます。

借地権は地主に買い取ってもらう方法もあると紹介しましたが、それに対し無償で土地を返す「土地の返還」を嫌がる地主はほとんどいません。

もし借地権の売却について地主の承諾が得られないときは、このような更地返還を検討するのもよいでしょう。ただし、土地は原則として借りたときの状態に戻して返還する必要があるため、建物を解体しなければならず、相続財産を現金化することもできません。

建物の解体費用は原則として借地人が負担しなければならない点には注意しておきましょう。

まとめ

借地権を相続したときは、大まかには被相続人が死亡したことを地主に報告し、登記を確認して遺産分割協議と所有権移転登記をおこなう必要があります。相続ではなく遺贈だった場合には、遺贈について地主の承諾が必要です。

また、遺産分割協議においては、借地権を共有名義の状態にしないよう意識しておきましょう。借地権を相続すると、相続税のほか、地代や固定資産税などの負担がかかり、売却や増改築については地主の承諾が必要となります。

借地権を相続したくない場合、相続放棄や売却、返還などの方法から自分にあった方法を選んで対応しましょう。

借地権専門の不動産仲介業者である中央プロパティーでは、相続した借地権に関するトラブルについて専門家に無料で相談できます。売却したいけど地主との話し合いがうまくいかないときなど、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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