借地権の裁判、借地非訟で負けないために。地主が知っておくべき対策
目次
借地権をめぐる紛争では、「裁判になれば弁護士に任せればよい」と考えている地主ほど、不利な結果に至る傾向があります。
その大きな原因の一つが、借地非訟という特有の手続を正しく理解しないまま対応してしまう点にあります。
借地権紛争では、通常の民事訴訟とは異なる判断枠組みが用いられ、地主の意思や契約書の内容がそのまま通るとは限りません。
本記事では、借地非訟の基礎から、地主が知っておくべき争点と実務的対策までを、判例や相談事例を踏まえて解説します。
借地非訟とは
借地非訟とは、借地借家法に基づき、借地人と地主との利害関係を調整するために設けられた裁判手続です。
代表的なものとして、借地権譲渡・転貸の許可申立て、建物建替え承諾に代わる許可、増改築許可などがあります。
いずれも、地主が承諾しない場合に、借地人が裁判所に申立てを行うことで開始されます。
民事訴訟との根本的な違い
借地非訟は、民事訴訟のように勝ち負けを決める手続ではありません。
裁判所は、当事者双方の事情を踏まえ、「公平」「相当」と考えられる結論を裁量によって導きます。この裁量の幅が非常に広い点が、地主にとって最大の注意点です。
たとえ契約書に明確な禁止条項があったとしても、それだけで地主の主張が認められるとは限りません。裁判所は、契約内容だけでなく、土地の利用実態、当事者の従前の対応、社会的相当性などを総合的に考慮します。
借地非訟が使われる典型的な場面
借地非訟が問題となるのは、主に次のような場面です。
- 借地権の譲渡・転貸の許可申立て
- 建物の老朽化を理由とする建替え承諾に代わる許可
- 建物の増改築に関する許可
これらはいずれも、地主が拒否していても、裁判所が許可を出すことができる制度です。
地主の意思だけでは止められない点が、借地非訟の最大の特徴といえます。
地主が借地非訟で不利になりやすい理由
借地非訟は「話し合いに近い手続」と説明されることがありますが、実務上は決して簡易なものではありません。書面による主張立証や鑑定が行われ、専門的な判断が積み重ねられます。
しかし地主側では、「非訟だから簡単だろう」と考え、十分な準備をしないまま対応してしまうケースが少なくありません。
一方、借地人側は弁護士や不動産鑑定士を付け、計画的に主張を構成するため、結果として地主の主張が採用されにくくなります。
裁判所が重視する判断要素
裁判所が重視する主な要素は、以下のとおりです。
- 借地人の利用状況や必要性
- 譲渡・建替え・増改築の合理性
- 地主の拒否理由が客観的かつ合理的か
- 過去に黙認や放置をしてきた経緯があるか
例えば、長年にわたり増改築を黙認してきたにもかかわらず、突然これを拒否した事案では、その一貫性のなさが地主に不利に評価される傾向があります。
実際の非訟裁判例でも、黙認の経緯が地主の主張を弱める重要な事情として判断されています。
借地非訟でよく争われる3つの争点【事例付き解説】
① 譲渡・転貸許可非訟
ポイント―「拒否しても裁判所が許可する」典型分野
借地権の譲渡や転貸について、地主様が拒否できるのは「正当な理由」がある場合に限られます。
実務では、借地人が高齢化や事業承継を理由に、第三者への譲渡を希望するケースが多く見られます。
借地人側の典型的主張
借地人は裁判で、「譲受人には十分な資力があり、賃料支払能力にも問題はない」「建物の利用方法も従前と変わらない」「地主に具体的な不利益は生じない」と主張します。
また、「地主は感情的に拒否しているにすぎない」と位置づけることも少なくありません。
実際の裁判例の考え方
裁判所は、単なる感情論や抽象的な不安ではなく、譲受人の属性・資力・利用態様が土地にどのような影響を及ぼすかを重視します。
譲受人が反社会的勢力である、用途が大きく変わり周辺環境に悪影響を及ぼすなどの事情がなければ、許可が出されやすい傾向があります。
地主様が取るべき対策
地主様としては、「誰にでも貸したくない」という主張ではなく、譲受人の信用力、資力、過去のトラブル、用途変更の具体的内容などを資料に基づいて主張する必要があります。
また、譲渡承諾料を含めた条件提示を行うことで、現実的な解決を図ることも重要です。
② 建替え承諾非訟
ポイント―老朽化だけでは足りない
建物の老朽化を理由とする建替え承諾非訟は、借地非訟の中でも特に件数の多い類型です。
借地人側の典型的主張
借地人は、「建物が老朽化し、安全性に問題がある」「修繕では対応できず、建替えが不可欠である」と主張します。
さらに、「建替え後も居住用として使用する」「規模や用途は大きく変えない」として、地主様への不利益がない点を強調します。
裁判所の判断ポイント
裁判所は、建物の危険性や耐用年数だけでなく、建替え後の建物の規模・用途・構造を詳細に検討します。
例えば、居住用から店舗・事務所へ用途が変わる場合や、建物規模が大幅に拡大する場合には、地主様の不利益が認められる余地があります。
地主様が取るべき対策
地主様は、建替え後の具体的な設計内容や用途変更の有無を精査し、周辺環境や土地利用への影響を明確に主張する必要があります。
全面的な拒否が難しい場合でも、承諾料や条件変更を含めた交渉により、実質的な不利益を補填する視点が重要です。
③ 増改築許可非訟
ポイント―「黙認」が最大のリスク
増改築許可非訟では、過去の対応が結果を大きく左右します。
借地人側の典型的主張
借地人は、「これまで同様の増改築について地主は何も言ってこなかった」「黙認されていたと考えるのが自然である」と主張します。
また、「軽微な改修にすぎず、地主に不利益はない」と位置づけることも多く見られます。
裁判所の考え方
裁判所は、過去に是正要求や警告がなされていたか、黙認が常態化していなかったかを重視します。
長期間にわたって黙認してきた場合、突然「契約違反」を主張しても、その主張は弱く評価される傾向があります。
地主様が取るべき対策
地主様としては、増改築を把握した時点で速やかに書面で是正を求めることが不可欠です。
将来の非訟を見据え、注意・警告の履歴を残し、一貫した管理姿勢を示すことが、裁判での重要な防御材料となります。
地主様が知っておくべき実務的対策
更新拒絶の適法性を高めるには
地主様が借地契約の更新を拒絶する場合、「更新したくない」という主観的な理由だけでは足りず、借地借家法上の正当事由が必要となります。
そのため、まずは契約書を確認し、更新条項や更新拒絶に関する定めが曖昧になっていないかを整理しておくことが重要です。
もっとも、契約書に条項があるだけで十分とはいえません。裁判所は、地主様側の必要性や合理性を重視します。
例えば、「親族が居住する予定がある」「建物や土地の老朽化が進み、安全上の問題が生じている」といった事情は、具体的な計画や客観的資料と結びついて初めて評価されます。
過去に更新を漫然と繰り返してきた場合には、その経緯も不利に考慮されるため、早い段階から記録を残し、一貫した対応を取ることが不可欠です。
賃料改定とその方法
賃料の増額についても、「周辺の土地より安いから」「昔のまま据え置かれているから」といった抽象的な理由だけでは、裁判所に認められる可能性は高くありません。
実務上は、賃料改定の合理性を客観的に示す資料を準備することが極めて重要です。
具体的には、固定資産税や都市計画税の推移、近隣の借地賃料相場、不動産価格や物価変動指数などを整理し、これらを根拠とした「賃料改定要望書」を作成します。
このように法的根拠と数値資料を示した上で交渉を行うことで、裁判や借地非訟においても地主様の主張が認められやすくなります。
まとめ
借地権は、不動産実務・法務・鑑定評価が複雑に絡み合う特殊な分野です。一般的な不動産会社では対応が難しく、弁護士であっても借地実務に精通していなければ、地主様の利益を最大化させることは容易ではありません。
借地権専門の不動産会社「センチュリー21中央プロパティー」は、数多くの困難な借地トラブルを解決してきた実績があります。
借地人との関係が悪化してからでは、取れる選択肢が限られてしまいます。
まずは、あなたの土地の現状とリスクを正しく把握するために、センチュリー21中央プロパティーへご相談ください。地主様の立場に寄り添い、大切な資産を次世代に最適な形で引き継ぐためのお手伝いをいたします。

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この記事の監修者
弁護士
エルピス総合法律事務所 代表弁護士/宅地建物取引士
東京大学法学部を卒業後、20年以上にわたり不動産法務の最前線で活躍するスペシャリスト。東京弁護士会に所属し、弁護士資格に加え宅地建物取引士の資格も有することで、法律と不動産実務の両面から深い専門知識と豊富な経験を持つ。
特に借地権における紛争解決においては、業界屈指の実績を誇り、借地権更新料問題、地代増減額請求、借地非訟事件、建物収去土地明渡請求など、複雑な案件を数多く解決に導いてきた。
著書に「事例でわかる 大家さん・不動産屋さんのための改正民法の実務Q&A」がある。メディア出演やセミナー登壇実績も多数。