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借地契約の更新拒絶における正当事由をわかりやすく解説

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借地契約の更新拒絶における正当事由をわかりやすく解説

「借地契約の更新を終了したいのだけどどうするの?」

「更新拒絶ってなに?」

借地は契約期間が満了となると更新することになりますが、地主によっては更新のタイミングで自分の土地を自身が使いたいと考えている方も多く存在します。

借地人がいるため、「マイホームを建築できない」「売却できない」など活用に制限がかかってしまいますが、地主は契約期間満了日の1年前から6か月前までの間に借地契約の更新拒絶を行うことも可能です。

とはいえ地主が更新拒絶するためには正当な事由が求められます。そのため単純に更新したくないという理由では適用されないため、どのような事由が当てはまるのかを事前に理解しておくことが大切です。

この記事では借地の更新拒絶の概要と更新拒絶に必要な4つの正当事由について紹介します。最後に借地人と地主の間で生じた更新拒絶の裁判事例を解説します。

1. 借地の更新拒絶とは

借地の更新拒絶とは、借地権の更新を地主側が断り、借地契約を満了とする方法です。更新拒絶された借地人はその土地を使用することができなくなるため、借地権付きの建物を解体しなければいけません。

とはいえ更新拒絶は急に申し出ることができるわけではなく、以下の2つのタイミングで伝える必要があります。

  • 借地人が契約の更新を請求したとき
  • 借地人が契約期間満了後も土地の使用を継続しているとき

借地権には賃貸借契約に明記された契約期間が定められており、満了が近づくと、借地人は更新の交渉を地主へ行います。また借地人が借地権の契約が終了したのにもかかわらず継続して使用しているタイミングで「地主は遅延なく異論を述べる」ことで更新拒絶をすることが可能です。

ただし借地契約の更新拒絶をするには「正当な事由」が求められます。借地人の立場とすれば、自分の住居を失うことになるためです。そのためどのような内容が正当事由に該当するかを把握しておかなければいけません。具体的な理由の前に、正当事由は新法と旧法によって条文が異なるため、次の項で詳しく解説します。

2. 新法と旧法の正当事由のちがい

正当事由は1992年(平成4年)8月1日以前から存続する借地権は旧法に該当し、それ以降新法が適用されています。そのため正当事由の条文は異なりますが、どのような点に違いがあるのでしょうか。実際は新法・旧法では条文も文言が違いますが、解釈は同じです。それぞれ説明していきます。

2-1 新法

新法における正当事由は以下の条項の通りです。

借地借家法 第6条
異議は、借地権設定者(地主さん)及び借地権者(借地人さん。転借地権者を含む)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

上記の内容をまとめると、正当事由は以下の3点にまとめられます。

  • 地主が使用を必要としている時
  • 土地の賃貸借契約を締結した際の状況と現在の状況が明らかに違っているとき
  • 地主が借地人に対して代替地や立ち退き料の支払いをした場合

しかし地主の意思だけでなく、借地人の土地の使用状況などを考慮して判断されると記載されています。そのため地主が土地を使用したいなどの一方的な意思では正当事由に該当せず、双方の事情から判断されます。

2-2 旧法

一方旧法では以下の条項となります。

第4条
土地所有者力自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合二於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタルトキハ此ノ限二在ラス
第6条
2 前項ノ場合二於テ建物アルトキハ土地所有者ハ第4条第1項但書二規定スル事由アルニ非サレハ異議ヲ述フルコトヲ得ス

上記の内容をまとめると、地主が土地を使いたいときに借地人に対して「遅延なく更新拒絶を述べた」時に正当事由として認められると記載されています。また借地人は決められた期限までに異議を述べればよく、それ以外の正当事由は認めていないと記載されています。

一見、地主側でその土地を使う必要があれば正当事由として認められると思われがちですが、新法では双方が土地を必要とする事情のほか、借地に関する従来の経過や土地の利用状況、財産上の給付などから判断されると明記されています。そのため、より詳細な内容を理解しておかないと、更新拒絶ができない場合もあるため、次の項で詳しく解説します。

3. 地主の更新拒絶に必要な4つの正当事由

地主が更新拒絶するためには以下の4つの正当事由に該当しているかを確認しなければいけません。それぞれ重要度が以下の表の通り異なります。

重要度
①地主及び借地人が土地の使用を必要とする事情最も重要
②借地に関する従前の経過重要
③土地の利用の状況重要
④財産上の給付正当事由に対する補足程度

ここではそれぞれの内容について説明します。

3-1 ①地主及び借地人が土地の使用を必要とする事情

「地主及び借地人が土地の使用を必要とする事情」は正当事由の中で最も重要視されています。土地を必要とする事情は「双方の土地の自己使用の必要性の内訳」と「正当事由を肯定する方向性の事情」に分かれ、主に以下の例が挙げられます。

双方の土地の自己使用の必要性の内訳正当事由を肯定する方向性の事情
本人または親族が居住のために土地が必要となった生計上必要となった通路開設の必要営業上の必要建物が長期間使用されていない建物が劣化し、腐食しているため使用していない借地人が不動産を多数所有している地主が他に不動産を所有していない土地がどうしても必要

新法でもあった通り、地主と借地人が土地の必要性を確認し、どの程度高いのかを判断しなければいけません。お互いの家族構成や職業、資産状況などから考慮されます。また借地人が「その土地を使用していない」「借地上の建物が著しく劣化・腐食しており、使用していない」などの状況であれば、正当事由に該当する可能性が高まります。

とはいえ正当事由は旧法が前提であるため、地主側は「土地の使用が必要である事情」がなければいけません。さらに借地人側の方が土地を使用しなければいけない事情が強ければ認められないということになります。長年使っていなくても、借地の更新後にすぐに使う予定などがあると、正当事由に該当しない場合もあるでしょう。とはいえ立ち退き料などの金額次第では正当事由が認められるケースもあります。

3-2 ②借地に関する従前の経過

借地に関する従来の経過は、地代の滞納履歴や更新料などの受領を行っていたかなど、借地における諸事情が考慮されます。地代の支払いが長い間滞っていた場合は、正当事由に該当すると判断されることもあります。また賃貸借契約を締結した時の地代より、現在の相場価格や固定資産税などの高騰によって地代の値上げ交渉を行ったものの、折り合いがつかない場合も双方の見解から正当事由に該当するか判断されることもあります。

3-3 ③土地の利用状況

現在の土地の使用状況などから正当事由に該当するか判断されます。借地人が住んでおらず、なおかつ老朽化している場合は、「なぜ所有しているのか」という理由が確認されます。また借地全体に対してどれくらい利用されているのかなどの割合も確認項目の一つです。さらに利用状況だけでなく、建物の築年数や構造、規模、用途など、建物の状況も正当事由に該当するかの判断材料となります。

3-4 ④財産上の給付

正当事由の最後の調整として、地主から借地人に渡す立ち退き料の金額や、代替不動産の提供ができるのかを確認します。仮に借地人が住んでいた家を明け渡すことになった場合、今後の生活に支障をきたさないように金銭を渡せるかもポイントです。また新たな居住先を提供するのも財産上の給付ができるかの判断材料となります。

上記の1〜④の要素は同列・同等ではなく、①が基礎となる重要な要素、②〜④は①を補充する副次的な要素となります。そして、①〜④の要素は総合的に考慮されて、正当事由の存否が判断されます。とはいえ、正当事由はケースバイケースであるため、借地権に強い弁護士や不動産会社に相談することが大切です。

経験豊富な専門家であれば、正当事由に該当するか判断してもらうことが可能です。更新拒絶は借地人にとって不利な状況にもなりかねないため、裁判まで発展する可能性が高いでしょう。結果裁判まで行って認められなかった場合は、時間と労力を費やすだけとなってしまうため、すぐに借地人に更新拒絶をするのではなく、専門家に相談することからスタートしましょう。

4. 更新拒絶の正当事由にまつわる判例

ここでは実際にあった更新拒絶の正当事由に関する判決事例を4つ紹介します。

  • 地主が物件を使用する理由が生じて正当事由と認められた判例

地主が娘と同居するため、現在の住宅と借家をリノベーションして一体化することを目的としていました。敷地内にある倉庫の解約申し入れに対し、3年分の賃料である100万円の立ち退き料として支払って正当事由として認められました。もちろん裁判所は賃借人と地主の事情を詳細に確認し、地主側の方が建物を使用する必要性が高いと判断した判例です。

参考:大阪地判昭和59年11月12日 判例タイムズ546号176頁

  • 賃貸借契約に明記された内容が正当事由に該当した判例

渡米した地主一家が、賃借人に部屋を貸しておりました。渡米時には「将来帰国するなどして自己使用の必要が生じた場合には賃貸借契約を解約し、賃借人はオーナーに対し本件建物を明け渡す」という契約を締結しており、数年後には帰国予定でした。帰国後、地主側は日本の学校に通う予定であったものの、借地以外の建物を所有していなかったため、親戚の家に居住しておりました。

しかしそもそも帰国後に物件を明け渡すと契約書に記載されていたため、地主側の正当事由が求められた判例です。

参考:東京地判昭和60年2月8日 判例時報1186号81頁

  • 老朽化した建物を解体するための更新拒絶の判例

駅から徒歩数十秒という立地築35年のビルを所有していた地主は、老朽化に伴い解体を検討していたため、賃借人に賃料3年分となる4,000万円の立ち退き料を支払って正当事由として認められた判例です。

駅近物件ということもあり、賃借人側であるテナントの売上を考慮すると、4,000万円が妥当ということで、地主は支払って更新拒絶を行いました。

参考:東京地判平成8年5月20日 判例時報1593号82頁

  • 土地の有効利用のために更新拒絶をする場合

賃貸用のビルを建設するにあたって、1つの企業が立ち退きを拒否し、正当事由に該当しなかった判例です。

賃貸用のビルは、建設エリアの地権者に対して土地の取得を進めておりましたが、出版業を営む賃借人が立ち退きを拒みました。

建設会社は立ち退き料の交渉を行ったものの、出版会社は揺るがず、さらに継続利用の必要性の高さが認められたため、更新拒絶に対する正当事由が足らないと裁判所が判決した事例です。

参考:東京地裁判決平成元年6月19日 判例タイムズ713号192頁

まとめ

借地権の更新拒絶は「借地人が契約の更新を請求したとき」「借地人が契約期間満了後も土地の使用を継続しているとき」に行うことができます。しかし正当事由がなければ、更新拒絶することができません。正当事由は新法と旧法で条文は異なるものの、「地主及び借地人が土地の使用を必要とする事情」が最も重要視されています。単純に土地を使いたいからという理由では借地人も納得できるわけがなく、裁判所も正当事由には足らないと判断されるでしょう。そのため「なぜ使う必要があるのか」を明確にしなければいけません。一方借地人も、普段から使用しておらず、老朽化したままにしていたり、地代を滞納していたりすると、地主の正当事由として捉えられ、立ち退くことにもなるでしょう。更新拒絶の正当事由は、地主と借地権者の状況によって異なるため、専門家に相談してから更新拒絶する必要があります。

当社は借地権を専門に取り扱う不動産会社として、これまで多くのトラブル解決やサポートを行ってきた実績がございます。提携している弁護士などもおり、正当事由に該当するかのアドバイスができます。さらに相談料無料でご対応させて頂いているため、借地権に関して悩んでいる方はぜひ中央プロパティーへご相談くださいませ。

 

この記事の監修者

岡田 卓巳オカダ タクミ

弁護士

弁護士。早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。地代滞納、建物明け渡しなど借地権・底地権の案件へ積極的に取り組む。主な著書に「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」「遺言書作成遺言執行実務マニュアル」など。

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