借地権が消滅するのはどんな時?朽廃・滅失の違いを解説
借地権が消滅するのはどんな時?朽廃・滅失の違いを解説

目次
借地権付き建物を所有している方にとって、建物の老朽化や万が一の災害時、借地権の扱いはどうなるのか気になるところです。
特に、建物が古くなったり(朽廃)、災害などで壊れたり(滅失)した場合、大切な借地権はどうなるのでしょうか。
この記事では、借地権が消滅する「朽廃」と、消滅しない「滅失」の違い、再建築の可否、借地権の存続期間、賃料(地代)の時効などについて分かりやすく解説します。
大切な権利と資産を守るために、ぜひご一読ください。

建物の「朽廃(きゅうはい)」により借地権は消滅する
借地権は永久に保障されるものではなく、特定の状況下では消滅する可能性があります。
その代表的な理由の一つが、借地の上に存在する建物が「朽廃(きゅうはい)」したと判断される場合です。
建物の朽廃とは
建物の朽廃(きゅうはい)とは、単に建物が古くなった状態、いわゆる一般的な「老朽化」とは区別される概念です。
朽廃は、劣化が極度に進み、建物が構造的な安全性を維持できなくなったり、雨漏りがひどく居住や事業などの本来の用途に使用することが到底できなくなったりするなど、社会通念上、建物としての存在価値がほぼ失われた状態を意味します。
大規模な修繕や補修を行ったとしても、もはや建物としての基本的な効用を回復させることが客観的に見て著しく困難であるか、またはそれに要する費用が非現実的なほど高額になるような深刻な状態が朽廃にあたります。
建物の寿命が尽き、その役割を果たせなくなった状態と言い換えることもできるでしょう。
建物が朽廃していると判断する基準
建物が朽廃しているか否かを判断するための、法律で定められた明確な数値基準などはありません。
個々の建物の具体的な状況や、関連する様々な要素を総合的に考慮して、社会通念に基づき判断されることになります。
評価の際に考慮される主な要素としては、建物の物理的な損傷の程度(例えば、柱や梁といった構造部分の腐食や欠損、建物全体の傾き、屋根や壁からの深刻な雨漏りの状況など)が挙げられます。
また、仮に修繕して使用可能な状態に戻す場合に、どれくらいの費用がかかるのか、そしてその費用が建物の現状の価値や再建築費用と比較して著しく不釣り合いではないか、といった経済的な側面も考慮されます。
さらに、建物の種類や構造、建築後の経過年数、そして現状で最低限の安全性や機能性を保ち、本来の目的に使用できる状態かどうかが総合的に評価されます。
必要に応じて、建築士など専門家の意見が参考にされることもあります。
建物の「滅失(めっしつ)」では借地権は消滅しない
借地上の建物が火災や自然災害などで物理的に失われる「滅失(めっしつ)」が起きても、それ自体が直ちに借地権の消滅理由となるわけではありません。
建物の老朽化が進み使用が困難になる「朽廃」とは異なり、滅失の場合は借地人の土地を使用する権利、すなわち借地権は原則として存続します。
借地借家法においても、このような事態における借地人の権利は保護されており、地主との契約に基づき、一定の条件下で建物を再築することも認められています。
したがって、建物が滅失したからといって、自動的に土地を返還しなければならない状況にはなりません。
建物の滅失とは
建物の「滅失(めっしつ)」とは、借地上に存在する建物が、その物理的な形状を失い、建物としての本来の機能や社会的な存在価値を喪失した状態を指します。
単に壁に穴が開いた、屋根の一部が破損したといった修繕や補修で回復可能なレベルの損傷ではなく、例えば、火災によって全焼し骨組みだけになった、地震や台風で完全に倒壊したなど、建物としての主要構造部が失われ、客観的に見て建物が存在しないと判断される状態がこれにあたります。
重要なのは、この滅失という事象が、たとえ発生したとしても、借地人が持つ土地に対する利用権、すなわち借地権そのものを自動的に消滅させるものではないという点です。
土地賃貸借契約の根幹は土地の利用権にあり、建物はその利用形態の一つであるため、建物が失われたとしても借地契約自体は継続されるのが基本的な考え方です。
建物が滅失するケース
建物が滅失するケースとしては、以下のような場合が考えられます。
- 解体
- 火災
- 地震
- 津波
- 洪水
- 土砂崩れ
- 噴火
- 大雪
- 大雨
- 台風・竜巻
これらのうち、地震、津波、台風、竜巻、洪水、土砂崩れ、噴火、大雪、大雨といった自然災害は、日本において発生しうるもので、その威力によっては建物を一瞬にして倒壊・流失させ、物理的な存在を失わせることがあります。
また、火災(不注意による失火や放火を含む)も、建物を全焼させ主要な構造を失わせる代表的な滅失原因となります。
リストにある「解体」は、これら災害や事故とは異なり意図的な行為ですが、結果として建物がなくなる点では共通します。
このように、様々な要因、特に突発的な外的要因によって建物が物理的に存在しなくなり、その機能を完全に失った状態が「滅失」と評価されることが一般的です。
滅失後の再建築は可能
借地上の建物が火災や災害などで滅失した場合でも、借地権そのものは原則として消滅しません。
そのため、借地人はその土地に再び建物を建築(再築)する権利を持っています。
土地を利用する権利が継続しているからです。
ただし、再築にあたって地主の承諾が必要かどうかは、借地契約の状況によって異なります。
借地借家法第8条の規定により、まだ一度も契約を更新していない最初の存続期間内に建物が滅失し、その期間内に収まる建物を再築する場合には、原則として地主の承諾は不要です。
これは、建物という生活基盤を失った借地人を保護するための重要なルールです。
しかし、契約が更新された後の期間中に建物が滅失し、残存期間を超えて存続するような建物を再築する場合には、地主の承諾が必要となりますので注意が必要です。
地主の承諾 | 承諾が得られない場合の対処法 | |
最初の存続期間内 | 原則不要 | – |
契約更新後の期間中 | 必要 | 裁判所に許可を申し立て可能 (代諾許可) |
もし、承諾が必要なケースで地主が正当な理由なく再築を承諾しない場合でも、借地人はすぐに諦める必要はありません。
上記の表にある通り、借地借家法の規定に基づき、裁判所に対して地主の承諾に代わる許可を求める申し立てができます。
これは、地主に代わって裁判所が許可を与えるもので、「代諾許可」と呼ばれることもあります。
裁判所は、借地に関するこれまでの経緯や土地の利用状況、地主側の事情などを総合的に考慮して、再築を認めるかどうかの判断を下します。
裁判所が許可を与える際には、借地人に対して承諾料に相当する金額(財産上の給付)の支払いを命じることがあります。
この金額の目安として、更地価格の3%~5%程度と言われることもありますが、個別の事案によって判断は異なります。
滅失後の再建築により借地権の存続期間も変更される
建物が滅失した後に再築が行われる場合、特に普通借地権においては、借地権の存続期間に重要な変更が生じることがあります。
借地借家法第8条に基づき、地主の承諾を得て、あるいはそれに代わる裁判所の許可を得て建物を再築した場合、原則として借地権の存続期間は「承諾があった日」または「建物が再築された日」のいずれか早い日から起算して20年間延長されます。
このルールにより、たとえ当初の契約期間満了が間近に迫っていたとしても、再築によってさらに長期間にわたり土地を利用できる可能性があります。
また、最初の存続期間中に建物が滅失した場合に限っては、借地人が地主に対して再築する旨を通知した後、2ヶ月以内に地主から異議がなければ、再築について承諾があったものとみなされる「みなし承諾」の規定があります。
この場合も同様に、借地権の期間は20年延長されます。
ただし、このみなし承諾は契約更新後の期間には適用されません。
注意が必要なのは、地主の承諾が必要な状況(主に契約更新後)で、承諾や裁判所の許可を得ずに無断で建物を再築した場合です。
この場合、期間延長の恩恵は受けられず、当初の契約期間が満了すれば借地権は終了します。
さらに、無断での再築は契約解除の理由となる可能性もあります。
なお、これらの期間延長のルールは、定期借地権(一般定期借地権や事業用定期借地権など)には適用されません。
定期借地権では、契約の更新や建物再築による期間延長が法律上認められていないため、たとえ地主の承諾を得て再築したとしても、当初定められた契約期間が満了すれば借地権は終了します。
そして、契約満了時には、特約がない限り、借地人は建物を取り壊し、土地を更地にして地主に返還する義務を負います。
したがって、定期借地権の契約期間があまり残っていないときに建物が滅失した場合は、再築してもすぐに取り壊しとなる可能性を踏まえ、再築を行うか、契約終了を受け入れるかを慎重に検討する必要があります。
普通借地権 | 定期借地権 | |
滅失後の再築 | 可能 (承諾/許可要の場合あり) | 可能 (承諾要の場合あり) |
再築による期間延長 | あり (20年) | なし |
延長の起算点 | 承諾日 or 再築日の早い方 | – (期間延長なし) |
みなし承諾 (初回期間) | あり | なし |
無断再築 (更新後) | 期間延長なし、契約解除リスクあり | – (期間延長なし) |
契約満了 | 更新あり | 期間満了で終了、原則更地返還 |

借地権が消滅した後の賃料には「消滅時効」がある
借地権契約が期間満了やその他の理由で終了し、借地権が消滅した場合でも、それ以前に発生していた未払いの賃料(地代)に関する問題が残ることがあります。
地主は元借地権者に対して、未払い分の支払いを請求する権利を持っていますが、この権利は永久に保証されるものではありません。
法律には「消滅時効」という制度があり、一定期間が経過すると、たとえ未払いがあっても地主はその権利を行使できなくなる可能性があります。
借地関係の清算において、過去の賃料債権がいつまで有効なのかを理解しておくことは、無用なトラブルを避ける上で役立ちます。
地主の「賃料請求権(賃料債権)」が有効なのは5年間
地主が借地人(または元借地権者)に対して、契約に基づいて賃料(地代)の支払いを求めることができる権利を一般に「賃料請求権」または法律用語で「賃料債権」と呼びます。
この権利は、借地契約が有効な期間中はもちろん、契約終了後に未払い分がある場合にも問題となります。
地主が持つこの賃料請求権は、無期限に行使できるわけではなく、「消滅時効」という法律上の制度の対象となります。
2020年4月1日に施行された改正民法では、債権の消滅時効は、原則として「(地主が)権利を行使することができることを知った時から5年間」または「(客観的に)権利を行使することができる時から10年間」のいずれか短い方の期間が経過したときに完成すると定められています(民法第166条第1項)。
賃料の場合、通常は毎月の支払期日が到来すれば地主は権利を行使できることを知るため、実質的には各支払期日から数えて5年間が経過すると、その月分の賃料請求権は時効によって消滅する可能性が高いと考えられます。
ただし、注意点として、単にこの期間が経過しただけでは自動的に支払い義務がなくなるわけではありません。
時効の利益を受けるためには、借地人(元借地権者)側から地主に対して「時効が完成しているので支払いません」という意思表示(これを「時効の援用」といいます)をする必要があります。
具体的には、主に以下のようなケースが該当します。
1. 賃料支払いの催告・・・ 地主が借地人(元借地権者)に対して、「賃料を支払ってください」と督促すること(例:内容証明郵便など)。催告があった時から6ヶ月間、時効の完成が猶予される(一時停止する)。 ただし、催告を繰り返しても、猶予期間が延長されるわけではない。(民法第150条) |
2. 裁判上の請求など・・・ 地主が裁判所に訴訟を起こしたり、支払督促を申し立てたりすること。これらの法的手続きが続いている間は、時効の完成が猶予される。 そして、裁判で地主の権利が確定した場合などには、時効が更新(リセット)され、その時から新たに時効期間(原則10年)がスタートすることもある。(民法第147条など) |
3. 協議を行う旨の合意(書面)・・・ 地主と借地人(元借地権者)の間で、賃料の支払いについて話し合いをすることを書面で合意する場合。原則として合意時から1年間(最長で通算5年間)、時効の完成が猶予される。(民法第151条) |
4. 債務の承認・・・ 借地人(元借地権者)自身が、支払うべき賃料があることを認めるような言動をすること。 具体例としては、「支払いを少し待ってほしい」「分割で払いたい」と申し出る、実際に賃料の一部を支払う、など。 債務を承認した時点で、時効は更新(リセット)され、そこから新たに時効期間(原則5年)がスタートする。(民法第152条) |
これらのルールがあるため、たとえ最後の支払いから長期間が経過しているように見えても、上記のような事情があれば、実際にはまだ支払い義務が残っている可能性があります。
地主から過去の賃料を請求された際には、単に期間の長さだけで判断せず、これらの「時効の完成猶予」や「時効の更新」がなかったかどうかも確認することが大切です。
過去の地代を地主に請求された場合はどうなる?
地主が賃料請求権を行使しないまま時間が経過し、支払期日から5年以上の期間が過ぎている地代について、後から請求を受けるケースも考えられます。
このような場合、もしその間に時効の完成を妨げるような事情(時効の完成猶予や更新)がなければ、借地人(元借地権者)は「消滅時効が完成している」と主張(これを「時効の援用」といいます)することで、法的な支払い義務を免れることが可能です。
ただし、非常に重要な点として、単に時効期間が経過しただけでは自動的に支払い義務がなくなるわけではありません。
必ず、支払い義務を免れたい側(借地人)が、時効の利益を受けるという意思表示(時効の援用)を地主に対して行う必要があります。
時効の援用をすれば法的な支払い義務はなくなりますが、そうであっても道義的責任を感じるなどして「支払ってはいけない」という法律上の決まりがあるわけではありません。
もし、借地人が時効期間が経過していることを知らずに支払ってしまった場合や、時効を援用できることを知っていながら敢えて任意で支払った場合には、後から「やはり時効だから返金してほしい」と求めても、原則としてその返還を求めることは難しいと考えられています。
これは、法的には支払い義務がないことを承知の上での支払いは、一種の贈与や道義的な債務の履行(自然債務の弁済)とみなされる場合があり、法的な返還義務(不当利得返還義務)が生じにくいとされるためです。
このように、地主から時効期間が経過したと思われる過去の地代を請求された際、借地人(元借地権者)は法的には時効の援用を主張して支払いを拒否できます。
しかし、現実的な問題として、支払いを拒否することによって地主との関係性が悪化することを懸念する場合もあるでしょう。
特に、今後も借地契約の更新を希望している場合など、将来の関係性を考慮して、あえて時効を援用せずに支払いに応じる、という判断をすることも一つの選択肢ではあります。
ただし、この場合に注意すべき点として、時効期間が経過した賃料を支払うという行為が、法律上の「債務の承認」にあたると判断される可能性があります。
もし債務の承認とみなされると、まだ時効期間が経過していない他の未払い賃料(もし存在すれば)についても、時効が更新(リセット)されてしまい、支払い義務を免れられなくなるリスクがあります。
どのような対応を取るべきか迷う場合や、法的な影響について正確に把握したい場合は、センチュリー21中央プロパティーをはじめ、社内弁護士が所属する借地権専門の不動産会社へ相談することをおすすめします。

まとめ
この記事では、建物の「朽廃」では借地権が消滅する一方、火災や災害による「滅失」では原則として借地権は消滅しないことを解説しました。
滅失後の再建築や普通借地権の期間延長、未払い賃料の時効など、借地権をめぐるルールは複雑です。
そのため、「建物の老朽化を理由に地主から突然立ち退きを求められた」「災害で建物が滅失した後、再建築を認めてもらえず困っている」「借地権がないはずなのに地代を請求され続けている」といった地主とのトラブルも少なくありません。
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センチュリー21中央プロパティーは、ご相談&トラブル解決実績4万件を誇る借地権専門の不動産会社です。
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この記事の監修者
弁護士
弁護士。東京弁護士会所属。常に悩みに寄り添いながら話を聞く弁護方針で借地非訟手続きや建物買取請求権の行使など今社会問題化しつつある借地権トラブル案件を多数の解決し、当社の顧客からも絶大な信頼を得ている。