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地代の増額・減額について|借地権の基礎知識

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地代の増額・減額について

地代の増額・減額のイメージ

賃料増額・減額請求とは

地代の値下げを要求する借地人

地主が今貰っている地代について相場よりも低い場合は、地主としては地代を上げたくなるでしょう(賃料増額請求)。
また、逆に借地人が支払っている地代が周辺に比べて高額であれば、周辺の地代に合わせる形で地代を減額してほしいと地主に請求したくなるでしょう(賃料減額請求)。

しかし急に値上げや値下げを請求された側は「そんなの聞いてない!!」となってしまいます。そんなもめ事を想定して、借地借家法では契約途中の地代の増減について、規定を設けています。

借地借家法第11条:

「地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が、土地に対する租税その他の公課の増減により、土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」

特に開発が著しい渋谷駅周辺や、最近駅ができた高輪ゲートウェイ駅周辺などは土地の価格が大きく上昇しています。一方で逆の現象ももちろんあります。
上記規定を設けたことで、周辺の相場と比較して著しく差がある場合は賃料の変更請求ができるようになりました。
その効果は将来に向かって生じます。

増減請求が認められる要件

それでは、具体的にどのような場合に地代の増減請求が認められるのでしょうか。借地借家法11条を元に見ていきましょう。

  1. 「土地に対する租税その他の公課」とは、基本的には税金、一般的には土地の固定資産税及び都市計画税のことをいいます。

  2. 「その他の経済事情の変動」とは、バブル崩壊やリーマンショックのようなときにおこるような経済事情の変動です。ただ、景気が悪いというのみでその判断をするのではなく客観的基準で判断することになります。その判断基準は、物価指数、通貨供給量、労働賃金指数等の経済指標の変動がこれに該当します。

  3. 「近傍類似の土地の賃料との比較」とは、土地が存在する近くの地域で類似の土地との比較を言います。同種の業態である必要があるため、例えば飲食店と賃貸アパートとではその比較対象としては合致しません。

上記3つの要件を満たし、さあ、地代の増減ができると思っていても、1つ注意点があります。
それは借地借家法11条の但し書き「・・・ただし、一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」という点です。契約時に当事者間で一定期間地代を増額しない旨の特約がある場合には、いくら相場と乖離があってもそちらが優先されます。

ここでのポイントは但し書きの適用があるのが増額の場合であり、減額の記述がない点です。減額に関しては当事者の特約があっても請求することができます。

借地借家法は基本的には借主を守ることに主眼が置かれています。地代が減る分には借主には有利に働きますが、地代が増額されてしまうと借主は地代を払えなくなり、住む家がなくなってしまう可能性もあります。
そのため借主に不利に働く部分は厳格な要件を課し、変更がしにくいようになっています。

適正賃料算定方法

地代の種類と計算方法

それでは、実際に適正な地代の算定方法についてみていきましょう。
地代の相場は「固定資産税・都市計画税の2~3倍」とよく言われます。あくまで目安で、実際に適正価格を算出するには個別に調査(不動産鑑定士に依頼)するしかありません。

不動産鑑定の方法の代表的なものとしては
1. 差額配分法、2. スライド法、3. 利回り法、4. 賃貸事例比較法、5. 公租公課倍率法が挙げられます。

いずれの方法も長所・短所があり、複数の方法を組み合わせたり1つの方法を基準にして別の要素を考慮したりすることもあります。裁判所で地代を算定するときにも、複数の計算方法を使って総合的に算定するケースが多くなっています。

賃料増額請求・減額請求の手続

それでは、実際の地代増額請求・減額請求の手続きについて解説していきましょう。

1. 交渉

交渉のアイコン

まずは、当事者間で交渉することが原則です。地代変更の交渉をし、ここでうまく折り合えれば、地代は無事変更されます。すんなり変更に応じてくれればよいのですが、通常はそうならない場合が多いので、根拠となる資料は用意しておいた方がよいでしょう。
無事当事者間で合意ができたら、後々のトラブル防止のために必ず書面で残しましょう。

2. 簡易裁判所に調停を申し立てる。

調整のアイコン

当事者間の交渉がうまくいかない場合には、簡易裁判所に調停を申し立てなければなりません。調停は裁判ではなく、調停委員が間に入って、争いが解決できるよう話し合いを進めてくれます。ここで同意が得られれば、めでたく地代は改訂されます。
裁判ではないの?と思う方もいるかもしれませんが、この種の争いは調停前置主義という原則があり、調停をした後でなければ、裁判をすることができません。

3. 賃料増額確認訴訟

訴訟のアイコン

調停でも合意に至らない場合には、いよいよ裁判になっていきます。裁判をするには、弁護士を雇ったり、訴訟に必要な証拠資料を用意したりする必要があります。また、判決が出るまで時間も長くかかってしまうため、裁判までいかずに何とか決着を図りたいところです。

賃料増額請求・減額請求の判例

地代に関しては当事者間でもめることが多く、判例も多くありますので、代表的な判例をご紹介致します。

♦参考判例1:最判平16年6月29日判決(地代のケース)

「賃料の増減額請求権に関する借地借家法の規定は強行規定であり、「消費者物価指数が下降しても賃料の減額はしない」とする旨の特約がある場合でも、賃料の増減額請求権の行使が妨げられることはない」

♦参考判例2:最判平15年10月21日判決(家屋のケース)

「その請求の当否(賃料増減請求の当否)及び相当賃料額を判断するに当たっては,当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,同契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約等が付されるに至った事情,とりわけ約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係,甲の転貸事業における収支予測にかかわる事情,乙の敷金及び融資を受けた建築資金の返済の予定にかかわる事情等をも考慮すべきである。」

また、いくらお互いに一定期間の地代を増額しない特約があっても、それが一方的に不利な場合には、無効になる可能性もある点には注意が必要です。

実際に「賃料は契約終了まで一切変更しません」という特約があったものの、この「契約終了まで」という部分が、借地借家法11条の「一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」という規定に反するとして、裁判で特約が無効となった例もあります。
一定期間の地代を増減しない特約は有効ですが、期間が不特定な特約は無効になる可能性があるということです。

いかがでしたでしょうか。
賃料増減請求の要件についてご紹介いたしましたが、実際に賃料増減請求をする場合には、当事者間の具体的な事情を総合的に考慮しこれらの要件を検討しなければならず、法的な知識や理解が不可欠となるため、専門家の手助けを借りなければ難しいと言えるでしょう。

この記事の監修者

岡田 卓巳オカダ タクミ

弁護士

弁護士。早稲田大学法学部卒業。東京弁護士会所属。地代滞納、建物明け渡しなど借地権・底地権の案件へ積極的に取り組む。主な著書に「一番安心できる遺言書の書き方・遺し方・相続の仕方」「遺言書作成遺言執行実務マニュアル」など。

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