借地権を相続した際の遺産分割協議書の作成ポイントを解説
借地権を相続した際の遺産分割協議書の作成ポイントを解説

目次
借地権付きの不動産を相続した場合、相続人同士で誰がどのようにその権利を引き継ぐかを決める遺産分割協議が不可欠です。そして、その合意内容を法的な効力を持つ形で記録するために、遺産分割協議書を作成します。
特に借地権が遺産に含まれる場合、その評価方法や地主との関係、登記の確認など、通常の遺産分割協議書にはない特有の注意点や記載すべきポイントが存在します。
この記事では、後々のトラブルを防ぎ、スムーズな相続手続きを実現するために、借地権を含む遺産分割協議書を作成する際の重要なポイントを分かりやすく解説します。

借地権相続で押さえておくべきポイント
借地権の相続における主なポイントは以下の通りです。
- 地主の承諾は不要
第三者に借地権を売却(譲渡)する場合は地主の承諾が必要ですが、相続によって借地権を引き継ぐ場合は、地主の承諾を得る必要はありません。 - 名義変更料・承諾料は原則不要
相続は譲渡とは異なるため、地主に対して名義変更料(名義書換料)や承諾料を支払う必要は原則としてありません。 - 契約内容はそのまま引き継がれる
地代の額や支払時期、契約期間などの借地契約の内容は、基本的にそのまま相続人に引き継がれます。 - 遺産分割の対象となる
相続人が複数いる場合は、他の相続財産と同様に、遺産分割協議によって誰が借地権(及び借地上の建物)を相続するのかを決める必要があります。
借地権の相続、遺産分割協議前に押さえるべきポイント
親御さんやご親族が亡くなり、借地権付きの建物を相続することになった場合、遺産分割協議を進めるにあたって、いくつか事前に確認・理解しておくべき大切なポイントがあります。権利関係や費用について正しく把握しておくことが、後の思わぬトラブルを防ぎ、スムーズな相続手続きにつながります。
権利関係を正確に把握しよう
遺産分割の話し合いを始める前に、相続する財産の状況、特に権利関係を明確にすることが何よりも重要です。具体的には、以下の2点を確認しましょう。
- 地主さんとの契約内容は?(借地契約書のチェック)
土地を借りる権利の根拠となる、地主と交わされた「借地契約書(土地の賃貸借契約書)」の内容を確認します。
特に契約期間や地代など、借地契約の内容をよく確認しましょう。
もし契約書自体が見当たらない場合は、相続人が確定した後に、改めて地主さんと契約内容を確認し、新しい契約書を作成することをお勧めします。 - 建物の名義は誰?(建物登記簿のチェック)
借地の上に建っている家の「登記簿謄本(登記事項証明書)」を取得し、所有者として登記されている名義を確認します。
亡くなった方の名義であれば、通常の相続手続きとして進められます。 注意が必要なのは、亡くなった方以外の名義になっている場合です。
しばしば見受けられるのは、亡くなった方の親(祖父など)の名義のままだったり、他の親族(叔父・叔母など)との共有名義になっていたりするケースです。
前者であれば、本来の所有者である方の相続まで遡って遺産分割協議を行う必要が生じます。後者の場合は、共有者となっている方(もし亡くなっていればその相続人)との間で、今後どのようにするか調整や協議が必要になります。
支払うべき費用の確認
借地権を相続したことを地主さんに伝えた際に、「名義変更料(名義書換料)」や「承諾料」といった名目で金銭の支払いを求められることがあるかもしれません。
しかし、相続によって借地権を引き継ぐことは、第三者に売却する「譲渡」とは法的に異なります。
そのため、地主さんの承諾を得る必要はなく、承諾料や名義変更料を支払う義務は原則としてありません。
また、月々の地代や契約期間などの借地契約の内容も、基本的にそのまま相続人に引き継がれます。相続したからといって、必ずしも新しい賃貸借契約を結び直さなければならないわけではありません。
一方で、注意したいのは、契約更新の際に支払う「更新料」や、家を建て替えたり大規模なリフォームをしたりする際に地主さんの承諾を得るために支払う「承諾料」などです。
これらの費用は、契約書に明記されていなくても、長年の慣習として亡くなった方が支払ってきたのであれば、借地権を相続した方も、今後同様の状況になった際には支払う必要があると考えられます。これらの将来的な負担についても、遺産分割の際に考慮に入れておくとよいでしょう。
借地権の相続手続きの手順
借地権の相続手続きの主な流れは、下記の通りです。
- 借地権の内容確認
- 地主へ連絡
- 相続登記(名義変更)
相続手続きを始めるにあたり、まず相続人が借地権の内容を確認しておく必要があります。
なお、相続人が複数いる場合や遺言書と異なる遺産分割を行う場合、遺言書に記載のない相続財産がある場合は全員で遺産分割協議を行い、誰が遺産相続をするか定め、相続人全員の合意を得て、遺産分割協議書を作成しなければなりません。
また、借地権の相続において、相続人が決定したあとは土地の所有者である地主に連絡をします。承諾を得る必要はないものの、借地権相続によって名義人が変更する旨はきちんと伝えておいたほうがよいでしょう。新たに借地契約書を巻き直す必要はありません。
地主への連絡が終わったら、相続登記にて借地権の名義変更手続きをします。名義変更手続きの際は、戸籍謄本や被相続人の戸籍の附票など複数の書類が必要となることも覚えておきましょう。
借地権の遺産分割方法
前述の通り、借地権の相続人が複数いる場合は、トラブル防止のためにも相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。遺産分割協議とは、名前の通り相続人全員で遺産の分割方法を話し合うことです。借地権も土地と同じように、遺産分割の対象となります。
借地権の遺産分割方法には、以下の4つがあります。
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有分割
それぞれの方法について詳しく紹介します。
現物分割
現物分割とは、土地を物理的にそのまま分ける分割方法です。
相続手続きも比較的簡単で相続においては一般的な方法ですが、1つの借地しかない場合には適しません。
しかし、借地面積が比較的広く、借地を2つに分けることができる場合は現物分割ができる可能性もあります。
ただし、借地を2つに分けて相続する場合、各々の借地で借地契約が必要となり、地代も2つの借地それぞれで支払いが必要となります。また、分割を行うことによる地主の不利益が大きい場合、契約解除をされる可能性もあるため注意が必要です。
現物分割の例
- 借地を2つに分ける
- 借地Aの借地権を長男に、借地Bの借地権を次男に相続する
代償分割
代償分割とは、特定の相続人が遺産を相続する代わりに、ほかの相続人へ一定の代償財産を交付して清算するという分割方法です。借地権の相続においては、この代償分割が一般的となります。
借地権を取得した特定の相続人が支払うべき代償金は、基本的に法定相続分に応じて算出・分配されます。例えば、長男・次男の2人の相続人がいて、長男が3,000万円の価値がある借地を相続した場合、長男は次男に1,500万円の代償金を現金などで支払うこととなります。
代償分割の例
- 借地権を長男に相続する
- 借地権を相続した長男が、ほかの相続人である次男に法定相続分に応じた代償金を支払う
換価分割
換価分割とは、相続対象の財産を売却し、売却によって得た現金を複数の相続人同士で分割するという方法です。例として、亡くなった夫が所有していた借地権を3,000万円で売却できた場合は、下記のように分割できます。
現物分割の例
- 配偶者(妻)は1,500万円を受け取る
- 長男・次男は750万円ずつ受け取る
換価分割であれば公平かつ柔軟な分割ができる一方で、現金化に費用や手間がかかったり、売上利益に対して所得税・住民税が発生したりすることも覚えておきましょう。
共有分割
共有分割とは、相続財産のすべて、または一部を複数の相続人が共有するという方法です。
ほかの分割方法とは違って特定の相続人を定めず、借地権の取得や所有にかかる費用などもすべて等分して支払う形となります。
また、建物の売却や建て替えなどにおいては、共有名義人全員の合意が必要となる点も覚えておきましょう。
このような特徴から、共有分割は相続人同士のトラブルに発展しやすくなっています。すべての相続人が合意をしないことから売却や建て替えの話が進まず、結果として何もできずに借地が放置されてしまったり、一部相続人が地代や税金を支払わなかったりなど、考えられるトラブルはさまざまです。
借地権の遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議を行ったときは、原則として遺産分割協議書を作成し、協議内容を残しておかなければなりません。
遺産分割協議書の主な記載項目は、下記の通りです。
- 被相続人の情報(氏名・死亡年月日・本籍・登記上の住所など)
- 分割する相続財産の内容
- 相続人全員が分割方法・割合に合意している旨
- 相続人全員の住所・氏名・押印
遺産分割協議書のフォーマットに定めはないため、任意の書式で作成しても問題はありません。しかし、書面の記載内容が不明瞭だった場合は提出先から訂正を求められる可能性があるため、不備がないかを念入りに確認しておきましょう。
作成した遺産分割協議書は、相続人全員が合意し、全員の署名・押印したうえで各自が所有しておく必要があることも覚えておきましょう。
■遺産分割協議書の書き方の例

まとめ
借地権は不動産と同様に相続対象の財産であるため、借地権を所有している家族が亡くなった場合は、相続人が借地権をそのまま引き継ぐことが可能です。地主への連絡は必要であるものの、承諾を得る必要がなく、当然承諾料の支払い義務もありません。
センチュリー21中央プロパティーは、借地権専門の不動産会社です。
借地権に強い弁護士と連携しながら、借地権の売却をサポートしています。
借地権相続後の売却や地主とのトラブルなど、お悩みを抱えている方は、ぜひご相談ください。

この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。