賃借権を相続したら?必要な対応や注意点を解説
賃借権を相続したら?必要な対応や注意点を解説

目次
賃借権は、相続対象となります。
そのため、住居を借りていた方が亡くなった場合、その賃借権は法律に基づき相続人に引き継がれます。賃貸借契約を終了させるためには、新たな賃借人となる相続人による解約手続きが必須です。
当記事では、賃借権を相続した際の対処方法と、賃借権の相続にまつわるトラブルについて解説します。

賃借権とは?相続の対象になる権利
賃借権とは、賃貸契約に基づき、他人の所有する建物や土地を使用する権利のことです。
意外に思われるかもしれませんが、この賃借権も相続の対象となります。
賃借人が亡くなると、その賃借権は法定相続人が相続することになり、相続人が複数いる場合は、原則として法定相続分に応じて共有(準共有)の状態となります。つまり、相続人全員が新たな賃借人となるのです。
ただし、賃借人が賃貸人(大家や地主)と「終身建物賃貸借契約」や「期間付死亡時終了建物賃貸借契約」を結んでいる場合には、賃借権の相続はできません。終身建物賃貸借契約では賃借人の死亡により、期間付死亡時終了建物賃貸借契約では一定期間の到来もしくは賃借人の死亡により、賃貸契約が終了します。
賃借権を相続したらどうすればいい?
賃貸借を相続した場合の主な選択肢には、以下のようなものがあります。
- 権利を引き継いで住み続ける
- 賃貸借契約を解約する
- 相続放棄する
①賃借権を引き継いで住み続ける場合
賃借権を相続して住み続ける場合、まずは遺産分割協議を行い、権利を承継する相続人を決定します。
遺産分割協議とは相続財産を分け合うために関係者が話し合い、遺産分割協議書を作成することです。
以下は、相続が発生してから遺産分割協議書を作成するまでの流れを示します。
- 相続人と相続財産を把握し、確定させる
- 財産目録(相続財産の一覧表)を作成する
- 相続人全員の同意を得て、遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議を経て決定した賃借権の相続人は、「自分が権利を取得した」と、賃貸人に報告します。賃貸人の報告後は賃借権の相続人が家賃や地代の全額を支払いますので、対象の不動産を使用・収益することが可能です。
なお、相続財産が多くて遺産分割協議がまとまらない場合などには相続人に不利益がない限り、賃借権の扱いのみを先に話し合うことも認められます。その場合は賃借権のみに関する遺産分割書を作成して、「一部分割」である旨を明記しましょう。
②賃貸借契約を解約する場合
対象の不動産を誰も使用しない場合に放置すると賃貸借契約が継続し、家賃や地代を請求されてしまいます。家賃や地代の支払いを逃れるためには速やかに、賃貸借契約を解約しましょう。
賃借権を解約する場合の注意点は、以下2つです。
- 賃貸借契約の中途解約条項に従った手続きが必要である
- 相続放棄できなくなる可能性がある
賃貸借契約では通常、「賃借人から契約を解約する際には1か月前までに申し出る」などの中途解約条項が定められます。賃借権を相続した場合でも中途解約条項が無効になることはないため、契約内容に従って手続きを進めます。
また、賃貸借契約を勝手に解約した事実が「相続財産の処分」とみなされる場合は相続財産の継承を認めたとされ、相続放棄できなくなる可能性があります。「賃貸借契約の解約が相続財産の処分にあたるか」は裁判でも判決が分かれているため、相続放棄を少しでも考えている場合は、対応に注意しましょう。
③相続放棄する場合
相続放棄とは、相続財産を継承する一切の権利を放棄することです。
賃借権を相続放棄するためには、相続の発生から3か月以内に家庭裁判所へ、相続放棄の申述書・被相続人の住民票除票などの必要書類を提出します。
提出した書類が受理されれば、相続放棄の手続きは完了です。
ただし、相続放棄の効力は賃借権以外の相続財産すべての権利義務にも派生しますので、相続放棄の手続きを行う際には自分自身にとってのメリット・デメリットを包括的に考え、冷静な判断を行いましょう。

相続人が複数いる場合の注意点
複数人で賃借権を相続した場合、原則として相続人全員が共有(準共有)という形で賃借人の立場を引き継ぎます。
この複数人で賃借権を相続した際には、特に以下の2点に注意が必要です。
- 賃料の支払いは相続人全員で按分する必要がある
- 契約を継続させるか終了させるか、全員で協議が必要
準共有の状態にある場合、各相続人が負担する賃料は、その法定相続分に応じた金額となります。しかし、賃貸人(大家さん)は、相続後に発生した家賃については、準共有となっている相続人の誰に対しても全額を請求する権利を持っています。
具体例として、月額12万円の賃貸物件に住んでいた父親が亡くなり、母親、長男、次男が法定相続人であるケースを考えます。この場合、賃貸人は母親、長男、次男のいずれか一人に対して12万円全額を請求できます。
【法定相続割合】
- 母親:持分 1/2
- 長男:持分 1/4
- 次男:持分 1/4
もし、長男が賃貸人から12万円全額の支払いを求められ、実際に支払った場合、長男は母親に対して6万円(12万円 × 1/2)、次男に対して3万円(12万円 × 1/4)の負担を求めることができます。
ただし、亡くなった方が生前に滞納していた家賃については、扱いが異なります。生前の滞納家賃は、相続開始の時点で「分割可能な金銭債務」とみなされるため、相続人が複数いる場合は、各自がそれぞれの法定相続分に応じて支払うことになります。
上記の例で、もし24万円の滞納家賃があった場合、母親、長男、次男がそれぞれ支払うべき金額は以下のようになります。
- 母親:24万円 × 1/2 = 12万円
- 長男:24万円 × 1/4 = 6万円
- 次男:24万円 × 1/4 = 6万円
※準共有の状態において、家賃の滞納を理由に賃貸人が賃貸借契約の解除を求める際には、相続人全員に対して手続きを行う必要があります。たとえ相続人のうちの一人が対象の建物に居住している場合でも、全員に対して解除の手続きを行わなければ、その解除の効力は生じません。
また、賃借権は相続によって自動的に消滅するわけではなく、原則として相続人がその契約を引き継ぎます。したがって、今後の賃貸借契約をどうするか(継続するか、解約するか)については、相続人同士で十分に協議し、決定する必要があります。

内縁の配偶者の場合、賃借権は相続できる?
事実婚のパートナーが亡くなった場合、法律上の夫婦ではないため、原則として内縁の配偶者は相続人とはなりません。
しかし、住居の賃借権に関しては、特別なケースで内縁の配偶者がその権利を引き継ぐことが認められています。
相続人がいない場合:内縁の配偶者の居住権
もし、亡くなった賃借人に法定相続人が一人もいない場合、内縁の配偶者は法律(借地借家法第36条)によって、その賃借権を承継することができます。
これは、内縁の配偶者が賃借人の死亡によって住む場所を失うことのないよう、法律が特別に保護しているためです。もちろん、賃借権を引き継いだ以上、内縁の配偶者は家主に対して家賃を支払う義務を負います。
相続人がいる場合:内縁の配偶者による賃借権の援用
一方、亡くなった賃借人に相続人がいる場合、原則としてその相続人が賃借権を相続するため、内縁の配偶者が直接的に賃借権を引き継ぐことはできません。
しかし、この場合でも、内縁の配偶者が住み慣れた住居からすぐに追い出されることのないよう、明確な法律の規定はないものの、過去の裁判例において、内縁の配偶者は相続人が持つ賃借権を「援用」するという形で、引き続きその物件に住み続けることができるとされています。
つまり、賃借権自体は相続人にありますが、内縁の配偶者もその権利を主張することで、家主からの立ち退き要求に対抗できる場合があります。
裁判例では内縁の配偶者の保護傾向が強い
過去の裁判例の傾向を見ると、たとえ家主と相続人間で賃貸借契約を終了させる合意が成立した場合でも、基本的には内縁の配偶者がその物件に住み続ける権利を認める判断が多く見られます。これは、裁判所が内縁の配偶者の居住の安定を重視する姿勢を示していると言えるでしょう。
ただし、相続人が家賃を滞納し、その結果として家主から賃貸借契約の解除が通知されたような場合には、内縁の配偶者も立ち退きを余儀なくされる可能性があります。
そのような状況においては、内縁の配偶者が自ら利害関係者として相続人に代わって滞納家賃を支払うことで、賃貸借契約の解除を防ぐという対策が考えられます。

賃借権の相続に関連する特殊なケース
賃借権はさまざまな状況で相続されることがありますが、その中には特殊なケースも存在します。
最後に、特殊なケースのときに賃借権がどう適用されるのかを解説します。
公営住宅の場合
公営住宅の賃借権は一般的に相続されません。したがって相続人であっても、公営住宅の賃借権を直接引き継ぐことはできません。
もし仮に相続人が公営住宅に住んでいても、正式な手続きを経ない限りは退去を求められる可能性があります。
これは公営住宅が、特定の条件を満たす住人に提供される社会的な住居だからです。公営住宅は自治体によって、入居を継続できる条件が異なります。たとえ以前の入居者、つまり被相続人がその入居要件を満たしていた場合でも、相続人が同じ条件を満たしているとは限りません。もし入居要件を満たしていなかったら、賃借権は適用されなくなります。
まとめ
賃借権は特別な契約を結んでいない場合は通常の相続財産と同じように被相続人に相続されます。相続した賃借権はそのまま使い続けることもできる一方、使用しないときは契約の解除や相続放棄も可能です。
CENTURY21中央プロパティーでは、相続した借地権の売却サポートを行っています。円満な相続ができた場合はもちろん、相続人同士でトラブルになっていて遺産分割協議が進まない場合や共有持分のみをばいきゃくしたい場合も、専門的なサポートが可能です。
借地権の売却をご検討の方は、ぜひご相談ください。

この記事の監修者
代表取締役 /
宅地建物取引士
CENTURY21中央プロパティー代表取締役。静岡県出身。宅地建物取引士。都内金融機関、不動産会社を経て2011年に株式会社中央プロパティーを設立。借地権を始めとした不動産トラブル・空き家問題の解決と不動産売買の専門家。主な著書に「[図解]実家の相続、今からトラブルなく準備する方法を不動産相続のプロがやさしく解説します!」などがある。