借地権の「混同消滅」、相続税評価では自用地と貸宅地どちらを使う?
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借地権の「混同消滅」、相続税評価では自用地と貸宅地どちらを使う?

借地権の「混同消滅」、相続税評価では自用地と貸宅地どちらを使う?

「父から相続した土地には、自分が所有する借地権付きの建物が建っている。相続によって土地の所有権も自分のものになったから、もう借地権は消滅するはず。つまり、評価は自用地(100%の所有権)で良いはずだ。」

相続税の土地評価では、「借地権が混同で消滅したとしても、その土地は貸宅地として評価する」のが正しい取り扱いです。

今回は、混同による借地権消滅時の評価の誤りやすいポイントを解説し、なぜ自用地評価にしてはいけないのかについて詳しく解説します。

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借地権の「混同」とは?同一人物が賃貸人と賃借人になったとき

借地権の「混同(こんどう)」とは、民法第520条に定められた権利消滅の原則の一つです。

土地を借りる人(借地権者/賃借人)が、その土地を貸している人(底地権者/賃貸人)の権利、すなわち土地の所有権(底地)を取得した場合に発生します。

同じ人が「借りる権利」と「貸す権利」の両方を持つことになり、借地権を存続させる必要がなくなるため、借地権が自動的に消滅する法的効果を指します。

また、これとは逆に買い戻しなどにより地主が借地権を取得した時も混同により借地権は消滅します。

借地権が混同で消滅しても「貸宅地」で評価する理由

相続税評価額の算定においては、国税庁の財産評価基本通達25で定められている通り、「相続開始の時において現に賃貸されていた宅地の価額」、すなわち貸宅地の価額で評価します。

相続人が底地を取得したことで借地権が消滅するとしても、それは相続後の法律効果であり、相続税評価額を計算するうえでは考慮されません。

【事例】「父から相続した土地には、以前から自分が借りていた借地権付きの建物が建っている。相続によって土地の所有権も自分のものになったから、もう借地権は消滅するはず。つまり、評価は自用地(100%の所有権)で良いはずだ。」

今回のケースで言うと、長男が相続した行為によって借地権が消滅しても、それはあくまで長男の取得後の話です。被相続人である父の立場から見れば、その土地は「他人に貸していた土地(貸宅地)」であり、この貸宅地の価値を評価することが税務上のルールとなります。

自用地と貸宅地の違いは、評価額が大幅に減額されることを意味し、納税額に大きく影響します。

区分誤った取り扱い正しい取り扱い
評価額自用地評価額(100%の所有権としての評価)貸宅地評価額(自用地評価額 × (1 – 借地権割合))
理由借地権が混同で消滅したから。相続開始時点は借地権付きの土地(貸宅地)だったから。

「自用地評価」と「貸宅地評価」の違いとは?

土地の評価には、「自用地(自分で使用)」「貸宅地(人に貸している)」があります。

例えば借地権割合70%の地域なら、貸宅地である底地の評価は自用地の30%程度です。

混同によって将来は自用地になりますが、今回の相続税申告では低い方の「貸宅地評価」を適用できるのが一般的です。

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【使用貸借の場合】自用地(100%評価)として課税される

相続前に、親子であることを理由に親の所有する土地に対して子が地代を払っていなかった場合(使用貸借)は注意が必要です。このケースでは、借地権の価値は税務上ゼロとみなされます。

そのため、底地を相続した際に「自用地(100%評価)」として課税される可能性があるのです。つまり、賃貸借だった場合に比べて相続税は高額になります。

相続における借地権の混同ではむしろこのケースのほうが一般的であるため、現金一括納付が原則となる相続税の納付を見越して、手元に現金を用意しておくと安心です。

このように、混同により借地権が消滅した際の相続税は複雑な要素が絡み合って金額が決まるため、申告前に税理士などの専門的なチェックを受けることをおすすめします。

相続税評価:借地権の混同に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 過去に権利金を払って借地権を取得しました。相続した土地の評価から、その権利金を引いてもらえませんか?

相続人(ご質問の要点): 父から土地を相続しましたが、過去にこの借地の権利金としてまとまったお金を父に支払っています。借地権が消滅した今、土地の評価額(自用地評価額)から、その時支払った権利金の分を差し引いて評価してもらえないでしょうか?

回答: 残念ながら、過去に支払った権利金を、現在の相続財産である土地の評価額から直接差し引くことはできません。

相続税の評価では、土地の評価額は、あくまで相続が発生した時点での土地の状態(=「貸宅地」)に基づき、国税庁の定める財産評価基本通達に従って算出されます。

過去に支払われた権利金は、その時点での借地権の取得対価であり、現在の土地(底地)の評価額を算定する要素として控除することは認められていません。

正しい貸宅地評価額を算出することで、土地の評価額は自用地評価額よりも低く抑えられます。その評価額の中に、取得した底地の経済的な価値が含まれているとご理解ください。

Q2. 親子間なので権利金を払っていません。借地権の認識もないので、自用地として評価して良いですよね?

相続人(ご質問の要点): 父との借地契約では権利金は支払っておらず、通常の地代(固定資産税の数倍程度)しか払っていませんでした。自分には借地権を取得した認識がありませんし、契約も「無償返還特約」のようなものだった気がします。この場合、相続した土地は、借地権がない完全な土地(自用地)として評価して良いのではないでしょうか?

回答: 権利金を支払っていない場合でも、原則として安易に自用地評価(100%の所有権評価)としてはいけません。

権利金の支払いがなくても、建物を所有する目的で土地を借り、適正な地代が支払われていれば、借地借家法上の「借地権」は成立していると見なされます。

この場合、税務上は「権利金の支払いを要しない借地権」として、通常の方法で貸宅地として評価する必要があります。

借地権ではなく「使用貸借(無償またはそれに近い対価で借りる契約)」と認定されれば、土地は自用地として評価されます。

しかし、公租公課(固定資産税・都市計画税)程度の地代を支払っている場合、それが単なる「負担の補てん」なのか「適正な地代」なのか、契約の実態や地域の慣行に基づいて慎重に判断しなければなりません。

「無償返還の特約」の有効性や、それが税務上の「借地権」または「使用貸借」のどちらに該当するかは、非常に複雑です。判断を誤ると相続税を過少申告してしまうリスクがあります。

権利金の有無にかかわらず、評価方法の最終判断には、契約書の内容や地代の変遷、地域の慣行などを詳細に確認する必要があります。必ず借地権や底地の評価に精通した専門家にご相談ください。

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混同でも借地権が消滅しない例外

混同が起こることで借地権は消滅しますが、例外的に消滅しないケースとして次の2つが挙げられます。

  1. 建物や借地権に「抵当権」がついている場合
  2. 借地上の建物に借家人がいる場合

これは、民法第179条(混同)に基づいた、第三者の権利を守るためのルールです。

ケース①:建物や借地権に「抵当権」がついている場合

1つ目は、借地権に銀行などの「抵当権」が設定されている場合です。

もし借地権が消えてしまうと銀行は担保の一部を失い、不利益を被ることになります。

このように、第三者の利益を害する恐れがある場合、借地権は消滅せず存続します。

ケース②:借地上の建物に借家人がいる場合

2つ目のケースとして、アパートや貸家として「第三者(借家人)」に貸している場合も注意が必要です。

借家人は、「借地権が存在する建物」であることを前提に入居しています。

そのため、いくら底地と借地権が同一人物のものになったとしても、入居者の権利を守るために、法律上あえて借地権を消滅させずに残すという解釈がなされることがあるのです。

混同の例外か否かの判断は専門家に相談する

上記でご紹介したような混同の例外は、非常に専門的な知識が必要とされる上、状況によりさまざまな見方がなされます。
そのため、自己判断で進めるとトラブルになりかねません。

このようなケースに当てはまる可能性がある場合は、借地権の取り扱いに実績のある不動産会社など、専門家への相談をおすすめします。

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相続後に必要な登記手続き

ご紹介してきた通り、親の土地を相続した際は混同により借地権が消滅しますが、その際に必要な登記手続きについて次の2つのケース別にご紹介します。

  1. 借地権が設定されている(土地に賃借権が登記されている)場合
  2. 借地権が設定されていない(土地に賃借権が登記されていない)場合

ケース①:借地権が設定されている(土地に賃借権が登記されている)場合

相続した土地に対し、地主(親)が生前に借地権を設定していた(土地に賃借権を登記していた)場合、通常の相続登記だけでなく「権利抹消登記」という登記手続きを行う必要があります。

権利抹消登記は、その名の通り「土地の賃借権を抹消する登記」のことで、名義変更(相続登記)と同時に行うことが一般的です。

個人で行うことも可能ですが、資料の収集や手続きには専門的な知見が必要なケースも多いため、司法書士に依頼することが一般的です。
その際は、司法書士に支払う報酬として6万円~12万円程度(相続登記+権利抹消登記の合計額)が必要になります。

後述しますが、このケースで権利抹消登記を行わないと、将来的に不動産を担保に融資を受けたり不動産を売却したりといった際の妨げとなる可能性があるため、司法書士に依頼の上必ず行いましょう。

ケース②:借地権が設定されていない(土地に賃借権が登記されていない)場合

相続した土地に対し、地主(親)が生前に借地権を設定していなかった(土地に賃借権を登記していなかった)場合は、通常の相続登記のみで問題ありません。

借地権においてはこちらのケースのほうが圧倒的に多く、相続登記のみで手続きが終わることが一般的です。

こちらのケースでも個人で全てを滞りなく行うことは難しいため、司法書士への依頼を推奨します。報酬の目安は5~10万円程度です。

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権利抹消登記をせずに放置することで起こるリスク

地主(親)の生前に土地に賃借権が登記されていた場合において、権利抹消登記を行わなかった場合、次の2つのリスクを負うことになります。

  1. 不動産を売却する時
  2. 融資を受ける時

リスク①:不動産の売却時に妨げになる

土地の権利抹消登記が行われていないと、将来的に不動産を売却する際の妨げとなる可能性があります。

登記簿に賃借権の登記が残っていると、買い手側に「厄介な権利関係があるのではないか」という懸念を抱かせ、せっかくの売却のチャンスを逃すことにもなりかねません。

リスク②:融資の際に担保価値が低く見られる

権利抹消登記が行われていない場合、売却時だけでなく不動産を担保とする融資を受ける際にも支障が出る可能性があります。

お金を貸す側である金融機関は、担保となる不動産の「担保価値」を重視しますが、土地に賃借権が残ったままの場合は担保価値が大幅に下がってしまうのです。

そもそも、「権利抹消登記」が融資実行の前提条件とされることも非常に多いため、相続時に手続きを済ませておくことをおすすめします。

まとめ

借地人が底地を取得すると、混同により借地権は消滅し完全な所有権になります。

ただし、土地に抵当権が設定されているなどの例外や、相続時の相続税評価の違いには十分に注意しましょう。

また、借地権の消滅と新たな所有権の取得に伴う登記手続きも必ず行ってください。

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借地権の相続やそれに伴う混同でお悩みの方は、ぜひ一度お気軽にご連絡ください。

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この記事の監修者

塩谷 昌則

弁護士

エルピス総合法律事務所 代表弁護士/宅地建物取引士
東京大学法学部を卒業後、20年以上にわたり不動産法務の最前線で活躍するスペシャリスト。東京弁護士会に所属し、弁護士資格に加え宅地建物取引士の資格も有することで、法律と不動産実務の両面から深い専門知識と豊富な経験を持つ。

特に借地権における紛争解決においては、業界屈指の実績を誇り、借地権更新料問題、地代増減額請求、借地非訟事件、建物収去土地明渡請求など、複雑な案件を数多く解決に導いてきた。

著書に「事例でわかる 大家さん・不動産屋さんのための改正民法の実務Q&A」がある。メディア出演やセミナー登壇実績も多数。

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