借地権における地上権(物権)と賃借権(債権)の違いとは?
借地権における地上権(物権)と賃借権(債権)の違いとは?

目次
「物権と債権の違いがよく分からない……」
「借地権付きの不動産を今後所有する予定があるけど、そもそも借地権とは?」
このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
借地権には、土地を利用する権利として「地上権」または「賃借権」が関わってきます。
地上権は「物権」、賃借権は「債権」に分類され、それぞれ性質が大きく異なります。
これらはどちらも財産に関する権利ですが、対象物を直接支配できるか、契約相手を通じて間接的に支配するか、登記は必要か、権利の譲渡や土地の転貸(又貸し)に地主の許可がいるかなど、多くの違いがあります。
今すでに借地権をお持ちの方や、これから所有する予定のある方は、それぞれの違いを把握しておく必要があるでしょう。
本記事では、まず物権と債権の基本的な違いを解説し、その上で借地権における「地上権(物権)」と「賃借権(債権)」の具体的な特徴と相違点を詳しく掘り下げていきます。

物権・債権の違い
物権と債権はどちらも財産に関する権利(財産権)ですが、権利が「物」に直接結びつくか、「人」に対する請求権として発生するかに大きな違いがあります。
物権とは:物を直接支配する権利

物権とは、特定の「物」を直接的かつ排他的に支配する権利です。
誰に対してもその権利を主張できる強力な権利とされ、すべての第三者に対して「これは自分のものです!」と主張できます。
民法で定められた主な物権には以下のようなものがあります(物権法定主義)。
- 所有権:特定の物を自由に使用・収益・処分する権利
- 地上権:他人が所有する土地を建物所有などの目的で自由に使用できる権利
- 抵当権:金融機関が債務者の土地や建物を担保にする権利(例:通行地役権)
- 地役権:ある目的のために、他人の土地を使用できる権利
- 占有権:物を事実上所有・支配する権利
例えば、建物の所有者は所有権(物権)を有しており、。
もし第三者が「この建物は私のものだ」と言ったとしても、所有権を有している人以外には権利の主張はできません。
また、物権が設定された「物」を他人に売却すると、通常、その「物」と一緒に代表的な物権である所有権などの物権も移ります。
物権は一度設定されると、その物の上に同じ内容の物権を重ねて設定することはできません。
例えば、土地の所有権が登記簿謄本上に登記されると、ほかの人は重ねて登記ができず有効に所有権を設定できないのです。
このように、同じ物の上に同じ内容の物権が重複して存在できないという物権の排他性(独占性)を守るために、以下のルールが定められています。
- 原則として、最初に物権が定められた(公示された)財産が最優先され、あとから定められた物権はそれに劣後する、あるいは効力を持たない
- 物権が定められた財産が侵害・妨害されるなどの被害を受けた場合は、返還や妨害排除といった請求権が与えられる(物権的請求権)
また、物権の存在や内容を権利者以外の第三者に対抗するには、その権利関係を外部から認識できる状態にする「公示」が必要です。
公示とは、公または私的な機関によって内容が登録され、誰でも閲覧できる状態にすることです。
例えば不動産では、登記簿謄本に権利などの情報を「登記」すると第三者に対抗できます。
動産であれば、「引き渡し」を行うことで第三者への対抗が可能です。
より具体的に言えば、建物を売却する場合において買主がその所有権を第三者に対抗するためには、所有権移転が登記簿謄本上に「登記」された時点でその効力が生じます。
一方、車の譲渡では、車自体を「引き渡し」た時点で買主は所有権の取得を第三者に対抗できるのが原則です。
債権とは:特定の人に特定の行為を請求する権利

債権とは、特定の人(債権者)が、別の特定の人(債務者)に対して、一定の行為(給付)を請求できる権利です。
物権が「物」に対する権利であるのに対し、債権は「人」に対する権利と言えます。
債権は主に当事者間の「契約」によって発生しますが、契約以外にも法律の規定(事務管理、不当利得、不法行為など)によって発生することもあります。
以下が、債権の一例です。
- 売掛債権:商品やサービスを提供した際に、顧客に代金請求できる権利
- 運送料債権:サービスとして物を運んだ際に、顧客に代金請求できる権利
- 工事請負代金債権:家の建築やリフォームなどを請負い工事完了後に、顧客に代金請求できる債権
- 不動産賃料債権:賃貸借契約を締結した際に、顧客に賃料を請求できる権利
このように、債権は物権のように目的物について直接的に権限を行使する権利ではありませんが、債権者は債務者に対する請求権である債権を通じて、結果的に物の引き渡しや代金の支払いなどを求めることができます。
そして債権自体は契約や法律に基づいて発生するため、例えば売買契約書を取り交わした時点で、債務者(購入側・お金を借りる側)と債権者(販売側・お金を貸す側)という立場が生まれます。
例えば、Aさん(買主)とBさん(売主)が売買契約を締結した場合、商品を販売したBさんは、商品を購入したAさんに対し、代金を請求できる権利(売買代金債権を持ちます。
この請求権は、債務者であるAさんにのみ行使できるものであり、無関係の第三者には行使できません。
つまり債権は第三者の誰にでも主張できる「絶対的権利」ではなく、特定の債務者に対してのみ主張できる「相対的権利」です。
債権には、同じ物の上に複数の債権をつけられる特徴があります。
例えば、ある施主に対して、請負業者が住宅建築の依頼を受けたことによる工事請負代金債権を有し、さらに同じ施主に対して、追加工事の依頼を受けたことによる別の工事請負代金債権を有する、といったことが可能性としてありえます。
物権と債権の比較
物権と債権の大きな違いは、目的物を直接支配できるか人を介して支配できるかです。
共通点は、どちらも財産権であることが挙げられます。
それぞれの違いを比較してみましょう。
物件 | 債権 | |
支配の仕方 | 物を直接・排他的に支配できる | 特定の人に特定の行為(給付)を請求する権利 |
第三者への権利の主張 | 誰にでも権利を主張できる(絶対効) | 特定の債務者に対してのみ権利を主張できる(相対効) |
独占的であるか | 独占的である (同じ物の上に同じ内容の物権は成立しない) | 独占的ではない (同じ物の上に同じ内容の債権は成立する) |
公示方法 | 不動産:登記 動産:引渡し | 原則不要 (ただし、対抗要件が必要な場合もある) |
物権の「物を支配する」という特性から、もしその権利が侵害された場合、権利者は侵害の排除や物の返還を求める「物権的請求権」を行使できます。
例えば、Aが所有する土地に、無関係のBが住宅を建築した場合、BによってAの所有権が侵害されます。
この場合、AはBに対して「建物をどけて、土地を返してくれ」と建物収去土地明渡請求を求める訴訟を起こすことが可能です。
勝訴できれば、強制的に建物を撤去して、土地を取り返せます。
一方、債権は人に対する請求権であり、物に対する直接的な支配力はありません。
例えば、株式会社Aと個人Bで売買契約を結び、Bが期日になっても支払わない場合でも、AはBから無理やりお金をもらうことはできません。
支払いを強制するには、訴訟を起こして勝訴判決を得た上で、強制執行の手続きをとる必要があります。
このように、債権の実現には相手方の協力や法的な手続きが必要となる点で、物権よりも効力が弱い、あるいは間接的と言えます。
そして、物権と債権には排他性の有無という大きな違いも存在します。
例えば、ある土地に対してAが所有権(物権)を持っていた場合、あとからきたBはその土地の所有権を得られません。
AとBが同時に一つの土地に対して所有権を持つのは不可能なため、Bが所有権を持つには、Aから譲ってもらう必要があります。

借地権において、地上権は物権、賃借権は債権に分類される
借地権には、地上権と賃借権があります。
地上権とは、他人の所有する土地を使用させてもらう物権のことです。
一方賃借権とは、賃貸借契約を締結し、賃料を払い使用させてもらう債権のことです。
ここでは、地上権と賃借権の違いを詳しく解説します。
地上権(物権)の特徴

地上権は、他人の土地において工作物(建物など)または竹木を所有するために、その土地を使用する権利であり、「物権」に分類されます。
地上権を持つ借地人(地上権者)は、以下のような強い権利を持ちます。
- 土地の自由な利用:地上権者は、設定契約の範囲内であれば、地主の承諾なしに建物を建てたり、改築したりすることができます。
- 登記請求権と対抗力:地上権は物権であるため、登記することが可能です。地上権者は地主に対して登記への協力を請求でき、登記をすれば、たとえ地主が土地を第三者に売却したとしても、新しい所有者に対して地上権を主張できます(対抗力)。
- 譲渡・転貸の自由:地上権者は、地主の承諾を得ることなく、地上権そのものを他人に譲渡したり、土地を第三者に転貸(又貸し)したりすることが原則として可能です(ただし、設定契約で禁止することもできます)。
- 抵当権の設定:地上権は財産的価値のある権利として、地上権自体を担保にして金融機関などから融資を受ける(抵当権を設定する)ことが可能です。建物だけでなく、地上権自体にも抵当権を設定できるため、住宅ローンなどを組みやすい場合があります。
存続期間については、建物所有を目的とする地上権の場合、借地借家法の適用を受け、契約で期間を定めても最低30年以上となります。
期間の定めをしなかった場合も同様に30年です(これより短い期間を定めても30年とみなされます)。
建物所有目的以外の工作物(例:看板、高架線)や竹木の所有を目的とする地上権で借地借家法の適用がない場合は、民法の規定により当事者が自由に期間を定めることができ、最長で50年です(定めがなければ20年や、永久と解されるケースもあり得ます)。
地上権は借地人にとって非常に有利な権利ですが、地主にとっては土地利用に関する制約が大きく、一度設定すると長期間にわたり土地の自由な処分や利用が難しくなるため、実際の借地契約において、特に個人間の一般的な宅地の利用で地上権が設定されるケースは多くありません。
関連記事:「地上権とは?地上権の種類と借地権・賃借権との違いを解説」
賃借権(債権)の特徴

賃借権とは、賃貸借契約を締結し、賃借人(=借地人)が賃貸人(=地主)に賃料を払い使用させてもらう「債権」のことです。
日本の借地契約の大部分は、この(土地)賃借権の形態をとっています。
土地賃借権を持つ賃借人(=借地人)の主な特徴は以下の通りです。
- 契約に基づく権利と賃料支払義務:土地賃借権はあくまで賃貸借契約によって発生・規定される権利です。したがって、契約内容に従って土地を利用し、地代(賃料)を支払う義務を負います。
- 地主の承諾が必要な場合が多い:債権である土地賃借権は、物権である地上権に比べると、権利の行使に関して地主の意思がより尊重されます。
- 建物の増改築:借地上の建物を増改築する場合、原則として地主の承諾が必要です。
- 譲渡・転貸:土地賃借権そのものを第三者に譲渡したり、土地を第三者に転貸(又貸し)したりする場合も、地主の承諾がなければできません。無断で行うと、契約を解除される原因となり得ます。
- 登記と対抗力:土地賃借権は債権であるため、地主には賃借権設定登記に協力する義務は原則としてありません。しかし、地主の協力が得られれば賃借権の登記も可能であり、登記すれば第三者に対抗できます。
より実務上重要なのは、借地借家法第10条の規定です。これによれば、土地賃借権自体の登記がなくても、借地上の建物について借地人名義の登記(所有権保存登記や表示登記など)があれば、その土地賃借権を第三者に対抗できます。これにより、賃借権であっても借地人の地位は実質的に強く保護されています。
存続期間については、民法上は最長で50年と定められています(これより長い期間を定めても50年に短縮されます)。
しかし、建物所有を目的とする土地賃借権の場合は借地借家法が適用され、地上権と同様に、契約期間は最低でも30年以上となります。
期間の定めがない場合も30年です。
土地賃借権は、地上権に比べて借地人の自由度はやや低いものの、地主にとっては土地に対する一定の関与を残せることや、契約によって柔軟な取り決めが可能であることから、日本の借地慣行においては圧倒的に多く用いられています。
地上権(物権)と賃借権(債権)の比較
これまで見てきた地上権と(土地)賃借権の主な違いを、一覧表で比較してみましょう。
特に建物所有目的の場合を念頭に置いた比較です。
地上権 | 賃借権 | |
権利の性質 | 物権 (土地を直接支配) | 債権 (契約に基づき土地利用を請求) |
登記 | 登記請求権あり (地主に協力義務あり) | 地主に登記協力義務なし ( 地主の協力があれば登記可) |
第三者への対抗力 | 地上権の登記による | 賃借権登記 または 借地上の建物登記による (借地借家法第10条) |
抵当権設定 | 地上権自体・建物ともに設定可能 | 土地賃借権自体には原則不可、建物には設定可能 |
譲渡・転貸時の地主承諾 | 原則 不要 | 必要 |
増改築時の地主承諾 | 原則 不要 | 原則 必要 |
存続期間 | 原則 最短30年(借地借家法) | 原則 最短30年(借地借家法) |
地上権は、(土地)賃借権に比べて借地人の権利が非常に強く、土地の利用や権利の処分に関する自由度が高いのが特徴です。
その反面、地主にとっては土地に対するコントロールを大幅に失うことになるため、不利になりやすいと言えます。
このような理由から、実際の借地契約、特に個人間の宅地利用においては、地上権が設定されるケースは非常に少ないのが現状です。
ただし、大規模なインフラ施設(例えば、鉄道の線路、送電線、トンネル、地下鉄など)を建設・所有するために他人の土地を利用するような場合には、その安定性と永続性を確保するために地上権が設定されることがあります。
一般的な建物の所有を目的とする借地では、(土地)賃借権が選択されることが圧倒的に多く、日本の借地権のほとんどがこの(土地)賃借権であると言われています。
これは、地主がある程度の関与を残せることや、借地借家法によって賃借人(借地人)の権利も十分に保護されていることなどが理由として挙げられます。
まとめ
本記事では、物権と債権という基本的な権利の違いから、借地権における「地上権(物権)」と「(土地)賃借権(債権)」の具体的な特徴まで解説しました。
多くの一般家屋の借地権は「賃借権」に分類されますが、いずれにしても借地権の権利関係は非常に複雑で、専門的な知識が求められます。
センチュリー21中央プロパティーでは、複雑な権利関係にある借地権や底地の売却を専門的にサポートしています。
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借地権のご売却に関するお悩みがございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。