親子間での借地権相続の注意点は?地主とのトラブル・相続税も解説
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親子間での借地権相続の注意点は?地主とのトラブル・相続税も解説

親子間での借地権相続の注意点は?地主とのトラブル・相続税も解説

借地権の相続は通常の不動産とは異なり、特有の配慮が必要です。

そのため、これまで親が住んできた借地権の実家を相続する際には、手続きや地主との関係に不安を感じる方も多いと思いのではないでしょうか。

そこで本記事では、親子間の借地権相続における注意点やトラブル事例、解決策を解説していきます。

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そもそも借地権とは?

借地権とは、「建物を建てて利用するために地主から土地を借りる権利」のことです。地主に毎月の地代を支払うことで、その土地に建物を建てることができます。

この「地主から土地を借りる権利」である借地権は、相続の対象になります。

借地権は、土地と建物の両方が自分の所有物である「所有権」とは異なり、土地は地主・建物は借地人と権利が分かれているため、相続時には建物の名義変更(相続登記)や地主への対応・契約内容の確認といった手続きが必要になるのです。

親から借地権を相続する際の4つの注意点

親から借地権を相続する際、後々のトラブルを防ぐために注意したいポイントは以下の4点です。

  1. 借地契約書の内容を確認する
  2. 借地上の建物が登記されているかを確認する
  3. 地主との良好な関係性を構築・維持する
  4. 借地権の相続人は誰か1人の単独名義にする

注意点①:土地賃貸借契約書の内容を確認する

まず、借地契約を締結した際に交わした「土地賃貸借契約書」を確認しましょう。

もし契約書がない場合や見つからない場合は、地主に写しをもらうか、過去の支払い記録から契約状況を把握するようにしてください。

注意点②:借地上の建物が登記されているかを確認する

次に、借地上の建物が登記されているか確認しましょう。

もし建物が未登記の場合、地主が変わった場合などに、新地主である第三者に対して「これは私が利用する家だ」という権利を主張できず、最悪の場合には追い出されてしまうリスクがあるためです。

また、登記されている場合であっても、相続後に親の名義のままになっていると新しい地主に対して権利を証明できません。 

そのため、借地権の相続時には必ず登記の状況を確認し、相続した人の名前で登記するようにしてください。

注意点③:地主との良好な関係性を維持・構築する

借地権を相続すると、土地の貸主である地主とは切っても切れない関係になります。

借地人と地主との間には、地代の支払いをはじめとする日常的なコミュニケーションが数多く存在するため、関係性が悪化するとさまざまな場面で大きな精神的ストレスを抱えることになるのです。

そのため、借地権を相続した旨の通知はもちろん、日頃からの挨拶なども心がけ、親世代からの関係性の維持・または今後の良好な関係性の構築に努めましょう。

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注意点④:借地権の相続人は誰か1人の単独名義にする

借地権を相続する際、兄弟などで「共有名義」にするのは避け、可能な限り誰か1人の「単独名義」にすることを強くおすすめします。

そのため、相続が発生した後は遺産分割協議で話し合い、必ず誰か特定の1人が借地権を相続するように調整しましょう。

親から借地権を相続する際に気をつけたい地主とのトラブル5選

親から借地権を相続する際、注意すべき地主との典型的なトラブルは以下の5点です。

  1. 立ち退き(土地の返還)を要求される
  2. 借地契約の更新を拒否される
  3. 地代の値上げを要求される
  4. 承諾料や名義変更料を要求される
  5. 建物の増改築・建て替えを拒否される

トラブル①:立ち退き(土地の返還)を要求される

借地権の相続において、地主からの立ち退き(土地の返還)要求はしばしば見られるトラブルです。

このパターンは相続により建物が空き家になる場合には特に多く、「誰も住まないのだから土地を返してくれ」という論調で要求されるのが一般的です。

立ち退き要求への対処法は?

地主が借地人に立ち退きを要求する時には、借地人の地代滞納など重大な契約違反があること、また地主自身がその土地を使用する必要性が高いことなど、「正当事由」が必要になります。
しかし、相続により建物が空き家になることは正当事由には当たりません

そのため、地主には「正当事由がない」ことを理性的に伝え、立ち退き要求の撤回を求める交渉をしてみましょう。

トラブル②:借地契約の更新を拒否される

借地契約の更新拒否も、立ち退き要求と並んで多く見られるトラブルです。

これは、相続と借地契約の更新時期が重なったタイミングで起こることが多く、地主が「この機会に」と、自分の土地を取り戻すために借地権の更新を拒否するのが一般的です。

更新拒否への対処法は?

地代の滞納をはじめとする重大な契約違反などの正当事由がないのであれば、立ち退き要求と同じく地主は借地権の更新を拒否することはできないためです。

これは、法律(旧借地法および借地借家法)により定められた借地人の権利であるため、更新拒絶の正当事由がない場合は地主に対してその旨を冷静に伝えましょう。

トラブル③:地代の値上げを要求される

借地権の相続時には、地主から地代の値上げを要求されるケースも少なくありません。

一度上がった地代が再び下がるケースは多くないため、慎重な対応が必要です。

地代値上げへの対処法は?

地代の値上げには、「賃貸借契約書に値上げに関する条項が存在する」、あるいは「固定資産税等の上昇、周辺の地代相場や地価が大きく変動した」といった客観的な理由が不可欠です。

まずは、地主の地代値上げに対してそのような根拠があるかを確認してみましょう。
その回答を踏まえ、その値上げが妥当なものであれば応じざるを得ない場合もあります。

とはいえ、その上でも法外すぎる値上げの場合はやはり応じられない旨を伝えることが重要です。

トラブル④:承諾料や名義変更料を要求される

相続で借地人が代替わりしたことを理由に、その承諾や名義変更の名目でお金を要求されるパターンも存在します。

親から借地権を相続したばかりで情報が不足している時期には、「そういうものか」と本来は不要であるはずの承諾料や名義変更料を支払うことになりかねません。

承諾料・名義変更料の要求への対処法は?

ただし、賃貸借契約書に「借地人名義の変更の際には名義変更料を支払う」といった特約が記載されている場合は、支払い義務が生じる可能性もあります。
したがって、事前に賃貸借契約書の内容をしっかりと把握しておくことが重要です。

トラブル⑤:建物の建て替え・増改築を拒否される

親から借地権を相続した後、親との同居などを目的に借地上の建物の建て替えや増改築をしたいと考えても、地主から拒否されることがあります。

借地人は、建物が新しくなることで長期にわたって安定的に生活できますが、地主からすると「いつまでも土地が帰ってこない」という考えから、建物の建て替えや増改築を承諾したくないのです。

建て替え・増改築拒否への対処法は?

その際は、土地を占有的に使いたいからではなく、「増改築や建て替えをしないと安全・快適に暮らしていけない」など生活に必須であるという理由で交渉しましょう。

どうしても話がまとまらない場合、裁判所から地主に変わる承諾を出してもらうために「借地非訟」という法的手段を用いることができます。
しかし、借地非訟の手続きは金銭的・時間的な負担が大きく、また地主との関係性にも致命的な亀裂が入ってしまうため、あくまで最終手段として考えておくことをおすすめします。

借地権は相続税の対象となる

借地権は土地の所有権ではありませんが、「土地を借りる権利」という財産として相続税の課税対象になります。

特に都市部では借地権の相続税が高くなりやすく、また相続税の納付は現金一括が原則となるため、親から相続する前に納付金額の目安となる「土地の評価額」を把握しておくことが重要です。

借地権の評価額を計算する方法

土地の評価額を計算する方法には、地方の土地に適用されることが多い「倍率方式」と、都心部の土地に適用されることが多い「路線価方式」の2種類があります。
このうち、借地権の相続税の計算は倍率方式ではなく路線価方式が適用されることがほとんどです。

路線価方式は、国税庁が公表している「路線価図」と、地域によって異なる借地権割合(借地における借地権の権利の割合)を使い、以下の式で計算します。

借地権評価額 = 路線価 × 土地面積 × 借地権割合

【例】土地の面積:400㎡・路線価:20万円・借地権割合:60%の場合

借地権の相続税評価額=400㎡ ×20万円×60%=5,400万円

借地権割合は地域によって異なり(都心の住宅地の多くは60~70%程度)、これも路線価図で確認することができます。 

なお、親が亡くなる前に借地権を「生前贈与」してもらえば相続税はかかりません。
しかし、この場合は相続税よりも高額な「贈与税」が課せられるため、可能であれば親の生前に税理士と借地の最適な承継方法を検討しておくのが良いでしょう。

親から借地権を相続する流れは?

相続手続きの流れは、大きく次の5つのステップに沿って進みます。

  1. Step1.遺言状の有無の確認
  2. Step2.相続人の確定と遺産分割協議
  3. Step3.相続した旨を地主に通知
  4. Step4.相続登記
  5. Step5.相続税の申告・納付

Step1.遺言状の有無の確認

被相続人(財産を遺す人)が亡くなったら、まずは遺言書を残していないかを確認しましょう。

遺言書は、自宅だけでなく法務局で自筆証書遺言が保管されている可能性がありますし、第三者を交えて作成する「公正証書遺言」であれば公証役場に保管されています。

遺言書が存在し、その中に遺産の分配についての記載があれば、原則としてその内容に従って相続を行います。

Step2.相続人の確定と遺産分割協議

遺言書がない、または遺言書で借地権の相続人が指定されていない場合は、相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。

協議がまとまったら、参加した全員の署名・捺印が入った「遺産分割協議書」を作成します。

Step3.相続した旨を地主に通知

地主と借地人は非常に密接な関係であるため、相続により借地人が変わったことを報告しなければ、「なぜ黙っていたのか」と地主に悪い印象を与えるおそれがあります。

Step4.相続登記

借地上の建物の名義変更(相続登記)を法務局で行います。

相続登記は義務化されており、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となる可能性があります。

また、借地上の未登記建物は自分の権利が証明されない不安定な状態になるため、借地の権利を第三者に主張できるよう、司法書士に依頼して確実に登記しましょう。

Step5.相続税の申告・納付

遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に税務署へ相続税の申告と納税を行わなければなりません。

借地権の財産評価は専門的な知識とそれに基づく計算が必要になるため、税理士などの専門家に相談して進めましょう。

親から相続した借地権の活用方法

最後に、親から相続した借地権の3つの活用方法をご紹介します。

  1. そのまま住み続ける
  2. 第三者に貸す
  3. 売却する

活用方法①:そのまま住み続ける

1つ目は、相続した借地上の建物に相続人が住み続けることです。
住環境に不満がなければ、その後も快適に暮らしていけるでしょう。

ただし、先述の通り建て替えや増改築には地主の承諾が必要になるため、特に希望がある場合は地主との交渉が必要になります。

活用方法②:第三者に貸す

2つ目は、借地上の建物を賃貸物件として第三者に貸し出すことです。

借地上の建物は借地人の所有物であるため、原則として地主の承諾を得ることなく第三者に賃すことが可能です。ただし、地主との良好な関係を崩さないよう、建物を貸し出す旨は事前に伝えておくことを強く推奨します。

なお、賃貸物件化のために間取りの変更などの大規模なリノベーションを行う場合、地主の承諾とそれに伴う承諾料が必要です。

活用方法③:売却する

相続した借地上の建物を使う予定がないのであれば、借地権そのものを売却して現金化するのも有効な活用方法です。

  • 地主に買い取ってもらう
  • 第三者に売却する

地主に買い取ってもらう

借地人が、借地の所有者である地主に借地権を売却する方法です。

地主自身が買主になるので、第三者(不動産会社など)への売却であれば必要になる譲渡承諾書の交付、また承諾料の支払いが不要になります。

ただし、書類の準備や地主との交渉などは専門的な知識が必要な場面も多いため、なるべく初期の段階から不動産業者などの専門家に仲介を依頼しましょう。

なお、売却価格に関しては、更地価格(完全な所有権の土地だと仮定したときの価格)の50%程度が一般的です。

第三者に売却する

地主ではなく、買取業者に借地権を買い取ってもらう、あるいは専門の仲介業者に借地権の買主となる第三者を仲介してもらう方法も存在します。

どちらを利用する際も、地主の承諾は必須です。

▼借地権売却における買取業者と仲介業者の比較

売却方法メリットデメリット売却金額の相場
買取業者への売却借地権をスピーディーに現金化できる。市場価格に比べて売却金額は大幅に下がる。更地価格の50%以下
仲介業者を通じた
第三者への売却
借地権を高額・好条件で売却できる。契約完了までに2~4週間程度の時間が必要になる。更地価格の60%~70%程度

上記を参照し、安くてもなるべく早く借地権を現金化したい方は買取業者、高額かつ好条件で借地権を売却したい方は専門仲介業者と、目的に応じた売却方法を選びましょう。

まとめ

この記事では、親から借地権を相続した際の注意点を中心に解説してきました。

▼親から借地権を相続した際の4つの注意点

  • 借地契約書の内容を確認する
  • 借地上の建物が登記されているかを確認する
  • 地主との良好な関係性を構築・維持する
  • 借地権の相続人は誰か1人の単独名義にする

このほか、地主とのやり取りや事前の相続税の把握などについても留意しておきましょう。

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この記事の監修者

塩谷 昌則

弁護士

エルピス総合法律事務所 代表弁護士/宅地建物取引士
東京大学法学部を卒業後、20年以上にわたり不動産法務の最前線で活躍するスペシャリスト。東京弁護士会に所属し、弁護士資格に加え宅地建物取引士の資格も有することで、法律と不動産実務の両面から深い専門知識と豊富な経験を持つ。

特に借地権における紛争解決においては、業界屈指の実績を誇り、借地権更新料問題、地代増減額請求、借地非訟事件、建物収去土地明渡請求など、複雑な案件を数多く解決に導いてきた。

著書に「事例でわかる 大家さん・不動産屋さんのための改正民法の実務Q&A」がある。メディア出演やセミナー登壇実績も多数。

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