借地権の無償返還に関する届出で評価額0円?相続税への影響と仕組み
目次
親族や同族会社間で土地を貸し借りする場合、「借地権の無償返還に関する届出」の有無が相続税に大きく影響します。
本記事では、制度の仕組みや適用要件、提出していなかった場合のリスクについて詳しく解説します。
「借地権の無償返還に関する届出」の概要と相続における役割
「借地権の無償返還に関する届出書」とは、法人と個人、もしくは法人同士の土地の賃貸借契約において、借地人が地主に対し「将来土地を無償で返す」と約束し、その旨を税務署へ届け出る手続きです。
通常、土地の賃貸借では、最初の契約時に借地人が地主に「権利金」という一時金を支払うのですが、親族間や同族法人では権利金の支払いは省略されることが一般的です。
しかし、権利金なしで土地を貸し借りすると、借地人に「権利金に相当する額の贈与があった」とみなされ、多額の税金(認定課税)がかかる恐れがあります。
この課税リスクを回避し、税務上における土地の貸し借りの取扱いを明確にするのが本届出の役割です。
無償返還の届出がある場合の相続税評価はどうなる?
実際に届出が出されている場合、土地と借地権はどのように評価されるのか、次の2つの視点から具体的な仕組みを解説します。
- 土地(底地)の評価:「貸宅地」として扱われ20%減額される
- 借地権の評価:価額は「0円」となり相続税がかからない
地主が持つ土地(底地)の評価:「貸宅地」として扱われ20%減額される
届出がある土地は、地主にとって「自由に使えない土地」とみなされます。
そのため、相続税評価では原則として更地価格(=自用地評価額)の80%となります。
例えば、更地評価額が1億円の土地なら、相続税評価額は8,000万円となり、20%分の2,000万円が減額されます。
この効果は大きく、相続税対策における際立ったメリットとなっています。
借地人が持つ借地権の評価額:「0円」となり相続税がかからない
一方、借地人(法人など)が持つ借地権の評価額は「0円」となります。
通常、借地権には「他人の土地を借りて活用できる」という資産価値があり、その評価は国税庁の定めた「借地権割合」などで表されますが、無償返還の届出がある場合は例外的に評価額は0円となり、借地人への相続税の課税はありません。
これは「無償返還」という契約の性質によるもので、「将来、立ち退き料などの対価を求めずに土地を返す」ということは、その土地に対する財産的な権利(転売益を得る権利など)を放棄しているのと同じと見なされるのです。
そのため、このケースにおける借地権は税務上「資産価値がない」と判断され、相続税評価額がゼロになるのです。
届出がない場合の相続リスクと「使用貸借」の判定
権利金の授受がなく、また「無償返還の届出」も未提出の場合、その契約は賃貸借ではなく「使用貸借」と判断される可能性が高まります。
使用貸借とは、地代を払わない、あるいは固定資産税程度のごく低い金額しか払っていない貸し借りのことです。典型的な例として、親子間で土地をタダで貸している状態などが挙げられます。
使用貸借と判定された土地は「自用地」として扱われ、他人に貸していても評価減は一切なく、先述の通り更地価格の100%で評価されます。
先ほど例として挙げた「自用地評価額1億円」の土地であれば、届け出を出していない場合の評価額はそのまま1億円となり、届出がある場合(80%評価=8,000万円)と比べて実に2,000万円もの差が生じてしまうのです。
なお、使用貸借の評価額は、届出を出した場合の借地権と同じくゼロとなるため、届出を出さなかった場合は、単純に地主側の相続税負担が20%増えることになります。
相続税は原則として現金一括納付が義務付けられており、また都市部の土地では相続税負担が大きいため、この20%の差が納税資金の不足を招く恐れもあり注意が必要です。
届出を相続税対策として機能させるための適用要件
届出を相続税対策として機能させるために、次の3点を押さえておきましょう。
- 【前提条件】法人が関与する賃貸借契約であること
- 賃貸借契約書への「無償返還」条項の明記
- 適正な地代設定
【前提条件】法人が関与する賃貸借契約であること
この届出は基本的に、法人(特に同族会社)が関わる契約を想定した制度です。
そのため、個人間(父と子など)の貸し借りでは原則としてこの制度は適用されません。
賃貸借契約書への「無償返還」条項の明記
まず、土地の賃貸借契約書に「契約終了時は直ちに土地を無償で返還する」旨を明記する必要があります。
口約束は認められず、書面の証拠が不可欠です。
また、税務調査の際には契約書と届出書の整合性が問われます。
契約書の内容について「法的に有効か確認したい」という場合は、司法書士にチェックを依頼すると安心です。
適正な地代設定
この制度では、原則として「通常の地代」の支払いが求められます。
実務上は、固定資産税の2〜3倍程度を年額地代とするケースが多く見られます。
地代がそれよりも極端に低いと、届出があっても使用貸借とみなされるリスクがあるため、税理士との相談が必要です。
相続発生前後における確認事項と注意点
最後に、いざ相続が発生した際、または将来に備えて確認しておくべきポイントとして、次の2点をご紹介します。
- 相続後に届出を提出しても相続税対策にはならない
- 「小規模宅地等の特例」との併用によるさらなる評価減
相続後の「後出し」提出は相続税対策にならない可能性がある
相続税は、相続税法第二十二条において被相続人が亡くなった日の状況に準じて計算されるとされているため、相続発生後に慌てて提出しても過去に遡って土地の評価額を下げることはできない可能性があります。
そのため、土地を相続したらすぐに「無償返還の届出」被相続人が生前に届出を提出していたかを確認しましょう。
相続時、手元に届出の控えが見当たらない場合でも、被相続人が生前に提出していれば所轄の税務署で閲覧請求が可能です。
あわせて土地の賃貸借契約書を確認し、無償返還の条項や地代の支払い状況もチェックしてください。
「小規模宅地等の特例」との併用によるさらなる評価減
無償返還の届出がある土地は、さらに「小規模宅地等の特例」を併用できる可能性があります。
これは、要件を満たせば一定面積まで評価額がさらに最大80%減額される税制上の特例です。
▼適用要件(居住用宅地の場合の概要)
- 被相続人(亡くなった方)が居住していた宅地である。
- 相続人が配偶者であるか、あるいは一定の条件を満たす親族である。
- 適用面積:330㎡(100坪)までの部分が対象。
これらを組み合わせることで相続税評価額を大幅に圧縮できるため、適用の可否を含めて税理士など専門家への相談をおすすめします。
まとめ
借地権の無償返還に関する届出は、適切に使えば土地評価を80%に抑え、借地権評価を0円にできる強力な制度です。
しかし、地代の設定や法人・個人の区分などで判断を誤ると「使用貸借」とみなされ、高額な税金を課せられるリスクも生じます。
ご自身の状況が要件を満たしているか不安な方は、可能な限り早い専門家への相談をおすすめします。
センチュリー21中央プロパティーは、社内弁護士と借地権売買のプロを抱える借地権専門の不動産会社です。
これまで、借地権・底地やその相続に関する数多くのトラブルを解決に導いてきました。
今後の借地権・底地の相続でお悩みの方は、どのようなご相談でもお気軽にお声がけください。

地主とのトラブル、借地権の売却にお悩みの方は、ぜひ当社の無料相談窓口をご利用ください!「借地権のトラブル解決マニュアル」では、トラブルの対処法や当社のサポート内容を紹介しています。ぜひご覧ください。
この記事の監修者
税理士
ワールド法律会計事務所 代表/税理士
ワールド法律会計事務所の代表を務める、借地権・不動産税務のスペシャリスト。東京税理士会日本橋支部所属(登録番号 117651)。
特に借地権の評価や譲渡に関する税金問題、地代・更新料の税務処理など、借地権にまつわる税務相談を得意分野としている。
生前贈与や親族間の不動産売買、相続対策など、多岐にわたる不動産税務全般にも豊富な経験と実績を持つ。税務の専門知識と実践的なアドバイスで、複雑な不動産税金問題を最適化し、お客様の賢い資産形成をサポートする。