トラブル事例:借地権者の囲繞地通行権はどうなる?|弁護士Q&A
トラブル事例:借地権者の囲繞地通行権はどうなる?
ご相談内容
甲は売主Aから、隣接するB、C、Dの土地に囲まれた本件土地に建つ借地権付(土地賃借権)中古住宅を本件土地の所有者の承諾を得て購入しました。売主Aの事前の説明では、本件土地から公道にでるためには、隣人Bの所有する隣地Bを通行して公道にでることができるとの話でした。 ところが、本件土地購入後、隣人Bに直接話しをすると、「本件土地の所有者やAとの間で通行権など認めていない。」と主張されてしまいました。 甲は、隣地Bを通行することが可能でしょうか。 また、車での通行は可能でしょうか。
ご相談のポイント
- 囲繞地通行権とは
- 囲繞地通行権と借地権
- 囲繞地通行権と通行地役権の違い
◆囲繞地通行権とは
本件土地は、周りの隣地を通行しない限り公道に出ることができない土地です。
このような土地を「袋地」と呼び、袋地を囲っている土地のことを「囲繞地」と呼びます。
民法では、袋地の所有者に対して、公道に至るために、囲繞地の通行権を認めています(民法210条1項)。
この権利は、法定の権利であり、囲繞地の所有者(本件では隣人B)の同意がなくとも認められる通行権です。
但し、通行の場所・方法については、他の土地への損害が最も少ないものを選択する必要があります(民法211条1項)。
本件において車での隣地Bの通行が認められるか否かは、その必要性や、囲繞地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合的に考慮して判断されることになります(最高裁平成18年3月16日判決ご参照)。
◆囲繞地通行権と借地権
前述の民法の条文上は、囲繞地通行権は『土地の所有者』に認められるものです。
それでは、借地が袋地であ場合、所有者である地主には囲繞地通行権があるとして、借地人についてはどうでしょうか。
この点、判例上は、借地人についても、前述の民法の規定の準用により、囲繞地通行権が認められています(最高裁昭和36年3月24年判決など)。
但し、借地人が権利を主張するためには、その借地権が対抗要件(借地人名義での建物登記等)を備えていることが前提として必要とされています。
◆囲繞地通行権と通行地役権の違い
他人が所有する隣地を通行する権利としては、これまで説明してきた囲繞地通行権の他に、通行地役権(民法280条1項)が考えられます。
この2つの権利には、(1)隣地所有者との合意の要否、(2)通行できる範囲、(3)権利の期間などの点で違いがあります。
- (1)については、囲繞地通行権は、隣地所有者の同意なく認められますが、通行地役権は、隣地所有者との合意(設定契約)が必要になります。
- (2)については、通行地役権では、設定契約の中で通行できる範囲を決められますが(車での通行を認めるか否かも設定契約の中で定めます)、囲繞地通行権の場合は、公道に出るために必要な限度での通行が認められるものです。
- (3)については、囲繞地通行権は、袋地状態が解消されない限り無期限に認められますが、通行地役権は、設定契約で期間を定めたときは、その期間に限って認められるものです。
これらの点以外にも、両者には違いがありますが、少なくとも、ご相談内容にある隣人Bの態度を考えると、隣人Bとの合意のもと通行地役権を設定することは困難な状況かと思われますので、本件では囲繞地通行権をもって通行することになるかと存じます。
まとめ
民法上、袋地所有者には囲繞地通行権が認められており、判例上は、袋地の借地人にも、借地権の対抗要件を具備する場合は、同様の囲繞地通行権が認められています。
但し、囲繞地通行権に基づく通行の場所及び方法は、囲繞地の所有者にとって最も損害が少ないものを選択する必要があるため、車での囲繞地の通行が認められるか否かは、諸事情の総合的な判断になります。
他人の所有する隣地を通行する権利としては、他に通行地役権もありますが、囲繞地通行権が隣地所有者の同意なく認められるのに対し、通行地役権は隣地所有者との合意(設定契約)が必要である等の違いがあります。
この記事の監修者
社内弁護士
当社の専属弁護士として、相談者の抱えるトラブル解決に向けたサポートをおこなう。
前職では、相続によって想定外に負債を継承し経済的に困窮する相続人への支援を担当。これまでの弁護士キャリアの中では常に相続人に寄り添ってきた相続のプロフェッショナル。