公道への通行権のトラブル
(借地権者の囲繞地通行権)|トラブル事例|借地権関連|法律・税金

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公道への通行権のトラブル
(借地権者の囲繞地通行権)

【借地人】公道への通行権のトラブル(借地権者の囲繞地通行権)

質問 甲は売主Aから、隣接するB、C、Dの土地に囲まれた本件土地に建つ借地権付(土地賃借権)中古住宅を本件土地の所有者の承諾を得て購入しました。売主Aの事前の説明では、本件土地から公道にでるためには、隣人Bの所有する隣地Bを通行して公道にでることができるとの話でした。 ところが、本件土地購入後、隣人Bに直接話しをすると、「本件土地の所有者やAとの間で通行権など認めていない。」と主張されてしまいました。 甲は、隣地Bを通行することが可能でしょうか。 また、車での通行は可能でしょうか。

公道に接していない「袋地」が、隣地Bを通行したい図

本件土地は公道に接していない「袋地」に該当し、隣地Bを通行する囲繞地通行権が認められる可能性があります。
※基本的には、徒歩での通行に必要な幅員1m程度が現実的です。

※従前に車が通行していた事情があれば認められるかもしれません。

公道に接していない「袋地」が、隣地Bを通行する囲繞地通行権が認められる可能性がある図 ※基本的には、徒歩での通行に必要な幅員1m程度。

囲繞地通行権

民法210条1項:「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。」

民法211条1項:「前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない

同条2項:「前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。」

とあります。
民法211条1項は、他の土地に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者に、その土地を囲んでいる他の土地(囲繞地)を通行する囲繞地通行権を認めています。

これは、法律上当然に通行権を認めるものです。従って、袋地の所有者は、囲繞地の所有者の同意無くして、囲繞地を通行する権利を取得できます。
ただし、袋地所有者の通行にとって必要であり、かつ、囲繞地所有者にとって最も損害の少ない範囲に限定されます(211条1項)

借地権者の囲繞地通行権

本件のような賃貸借に基づく場合、囲繞地通行権は認められるのでしょうか。

  • そもそも、条文上所有者としか記載されていないため、囲繞地通行権が認められるのでしょうか。

参考判例を見てみましょう。

♦参考判例:最判昭和36年3月24日判決

判旨:「原判決が右の如く賃借土地の引渡を受けて現に賃借権を有するX1のために民法213条を準用してその隣接する乙板垣の存する土地につき通行権を認めたことは是認できるけれども…」

としています。賃借権でも囲繞地通行権は認められると解されます。
対抗力のある賃借権であることが必要なため、本件の場合では建物登記をし、対抗力のある賃借権にしておくとよいでしょう。

囲繞地通行権の範囲

民法211条1項:「前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。」

とあるように必要、かつ、囲繞地所有者にとって最も損害の少ない範囲で認められます。

♦参考判例:最判平18年3月16日

 判旨:「210条通行権は,その性質上,他の土地の所有者に不利益を与えることから,その通行が認められる場所及び方法は,210条通行権者のために必要にして,他の土地のために損害が最も少ないものでなければならない…自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は,他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。」

としています。
具体的に自動車が通行できるほどの囲繞地通行権が認められるかについては、隣人へ与える損害の程度が大きいため、徒歩による通行の場合に比較すると認められる可能性は低くなるでしょう。

通行地役権

なお、囲繞地通行権と並んで、通行地役権の交渉もすべきです。

民法280条:「地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。」

引用元: より

上記のように隣地の人と通行地役権という契約を結ぶことが考えられますが、本件では隣人が拒否している事情があるため困難かもしれません。

  • 賃借権を設定するならば、その土地の一部を契約者が排他的・独占的に使用することとなるため、そのため承諾を得ることが難しく、また賃借料も高額になるため、一般には通行地役権が有効です。

囲繞地が売買された場合の囲繞地通行権の帰趨

囲繞地所有者がその土地を売ってしまったらどうなるのでしょうか。囲繞地通行権は消滅してしまうのでしょうか。

♦参考判例:最判平2年11月20日判決

判旨:「…他の分割者の所有地又は土地の一部の譲渡人若しくは譲受人の所有地(以下、これらの囲繞地を「残余地」という。)についてのみ通行権を有するが、同条の規定する囲繞地通行権は、残余地について特定承継が生じた場合にも消滅するものではなく、袋地所有者は、民法二一〇条に基づき残余地以外の囲繞地を通行しうるものではないと解するのが相当である。

としています。すなわち、囲繞地が売買・譲渡によって特定承継が生じても従前の囲繞地通行権が消滅することはありません。理由としては、

  1. 囲繞地通行権などの規定は、土地の利用の調整を目的とするもので対人的な関係を定めたものではなない。

  2. 囲繞地通行権も、袋地に付着した物権的権利で、残余地自体に課せられた物権的負担と解すべきものであるからである。

  3. 袋地所有者が自己の関知しない偶然の事情によってその法的保護を奪われるという不合理な結果をもたらし、他方、残余地以外の囲繞地を通行しうるものと解するのは、その所有者に不測の不利益が及ぶことになって、妥当でない。

という理由に基づきます。

この記事の監修者

塩谷 昌則シオタニ マサノリ

弁護士

弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。

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