無知な借地人に起きたこと(意地悪な地主)|トラブル事例|借地権関連|法律・税金
無知な借地人に起きたこと(意地悪な地主)
目次
- 質問 Aは地主Bと建物所有目的で甲土地を借りる契約を結びました。 その際、BはAにこんなことを申し出ました。「あなた(A)は高齢で、亡くなった後親族たちに家を管理させるのは迷惑になる。Aが亡くなった後は私(B)が管理をしてあげます。もちろん、亡くなるまでは今の土地を利用してください。亡くなったら、私(B)に借地権を贈与するという特約(本件特約)を結んでおくだけで大丈夫です。」AはBの言う通り、本件特約を結びました。その後、Aは亡くなり、Aの子CDが相続を、と思ったところ、上記本件特約の存在が明らかになりました。CDは許せません。Bに抗議に行きましたが、上記特約を根拠につき返されてしまいました。どうにかならないものでしょうか。
- 詳細解説
質問
Aは地主Bと建物所有目的で甲土地を借りる契約を結びました。
その際、BはAにこんなことを申し出ました。
「あなた(A)は高齢で、亡くなった後親族たちに家を管理させるのは迷惑になる。Aが亡くなった後は私(B)が管理をしてあげます。もちろん、亡くなるまでは今の土地を利用してください。亡くなったら、私(B)に借地権を贈与するという特約(本件特約)を結んでおくだけで大丈夫です。」
AはBの言う通り、本件特約を結びました。
その後、Aは亡くなり、Aの子CDが相続を、と思ったところ、上記本件特約の存在が明らかになりました。
CDは許せません。Bに抗議に行きましたが、上記特約を根拠につき返されてしまいました。
どうにかならないものでしょうか。

詳細解説
死因贈与って?
「贈与」とは、贈与する人と贈与を受ける人の間で、「贈与する人が死亡した時点で、事前に指定した財産を贈与する」という贈与契約を結ぶことを言います。
(死因贈与)
民法554条:「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。」
例えば、私Aが死んだら、甲不動産をBに贈与するというのが典型例です。
ポイント
遺贈と死因贈与の違いとは?
死因贈与は遺贈と比べて不動産を与える際の税率が高く設定されているなどの違いがありますが、最大の違いは、遺贈は遺贈者が一方的に行う意思表示なので、受遺者は財産を受け取らないという選択も可能です。これに対し、死因贈与は贈与者と受贈者の合意で成立する契約です。この点が一番異なるでしょう。
本件の場合
さて、本件の場合、Aが死亡した結果、死因贈与契約の内容が発生し、死亡と同時にBに借地権が移転してしまっています。CDとしては「こんな契約認められない!無効だ!」と主張したいところですが。
当事者同士がどのような契約を結ぶかは原則自由です(契約自由の原則)。そもそもの契約を無効にするには、なかなか難しいと言わざるを得ません。無効を主張する根拠としては、公序良俗違反や信義則などのいわゆる一般条項を根拠に、無効をしていくことになると考えられます。その他には下記を根拠に契約がなかったことにする主張も考えられます。
(錯誤)
民法95条:「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」
(詐欺又は強迫)
民法96条:「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」
引用元: より
95条の錯誤は「いわゆる勘違い」で、本件の場合だと、契約の相手方や契約の内容を勘違いしていたと主張することになります。ただ、そのような主張をたやすく認めてしまうと社会は混乱してしまうため、そもそもなかなか認められません。
一方、詐欺や強迫の場合は、錯誤よりは主張が認められやすいとは言えますが、当然、詐欺や強迫の事実をCD側で証明しなければなりません。自らの力で立証するのは困難で、専門家に助けを委ねることが必要でしょう。
本件のようなケースでは、泣き寝入りをしてしまうケースが多いです。というのも、すでに契約の当事者の一人は亡くなってしまっているからです。このようなことになるのを防止することが何より大切です。なお、死因贈与の場合、贈与者の生前に死因贈与契約による「仮登記」をすることができます。こちらは、登記簿を見ればわかり、贈与者が亡くなる前に死因贈与契約を撤回する方向に転換できる可能性はあります。
この記事の監修者
弁護士
弁護士。兵庫県出身。東京大学法学部卒業。東京弁護士会所属。弁護士資格のほかマンション管理士、宅地建物取引士の資格を有する。借地非訟、建物明渡、賃料増額請求など借地権や底地権をはじめとした不動産案件や相続案件を多数請け負っている。