相続した借地権、地主への返還方法は?更地にして返すより売却がお得?
目次
「遠方に住んでいて管理が難しい」「固定資産税や維持費が負担…」などの理由で、相続した借地権を地主に返還しようと考える人は、多くいらっしゃいます。
ただし、借地権の返還には、建物の解体費用や地主への買取交渉など、考慮すべき点が多く含まれています。
この記事では、借地権の返還方法を紹介するとともに、各方法における費用や注意点なども解説します。
相続した借地権を返還すべき5つのケース
借地権は「土地を所有していないのに、建物だけを所有している」という特殊な権利です。
相続で受け継いだものの、維持管理の負担や経済的負担が重く、結果的に返還を検討するケースは珍しくありません。
ここでは、返還を検討しやすい典型的な悩みを、より具体的に解説します。
① 管理の負担が大きいケース
相続した家が実家から離れていると、
- 建物の点検
- 草刈りや清掃
- 郵便物の確認
- 近隣トラブルの対応
など、細かい管理を行うたびに時間と交通費がかかります。
“年に数回の管理” でも実際は大きな負担で、「放置するくらいなら返還したい」と考える人が増えています。
相続人自身が高齢の場合、「自分では維持できない」「家族も協力できない」という理由から返還を希望するケースが多いです。
② 維持費・固定資産税の負担が大きいケース
借地権の建物には、土地を持っていなくても固定資産税が課税されます。
さらに、建物が古いと修繕費が継続的に発生し、金銭的負担は軽くありません。
- 雨漏り
- 外壁の劣化
- シロアリ
- 給排水管のトラブル
こうした修繕は放置するほど費用が膨らみます。
「所有しているだけでお金が出ていく物件」になってしまうこともしばしばです。
また、住んでいない場合も、固定資産税はかかり、収入がないのに維持費だけかかる状況にストレスを感じる人が返還を選びます。
③ 空き家問題・建物の老朽化による不安
管理が行き届かないと、空き家は急速に劣化します。
- 窓ガラスが割れる
- 台風時に屋根材が飛ぶ
- 雑草が繁茂し害虫が増える
- 不審者の侵入
こうしたリスクに備えるためにも、多くの人が早めの返還を検討します。
また、管理不十分な空き家は自治体から特定空き家に指定され、固定資産税の軽減措置(住宅用地特例)が外れます。
結果として、固定資産税が数倍に増える可能性があり、これを避けたい目的で返還する人もいます。
④ 地主との関係や今後への不安
借地権は、土地を借りて成り立つ権利のため、地主との関係が重要です。
老朽化した家を建て替える際には、地主の承諾が必要で、承諾料の請求や減額交渉の不調などで精神的な負担になるケースがあります。
更新料の請求や、地代値上げの話が出ることもあり、「これ以上地主とやり取りするのが難しい」と感じて返還を選ぶ相続人もいます。
相続前から地主と距離があり、「今後のやり取りに不安がある」という心理的負担が返還の動機となります。
⑤ 経済的な理由による返還
借地権付き不動産は、一般の土地建物と比べて売却が難しいケースがあります。
借地権は買い手が限られるため、
- 希望価格より安い査定
- 長期間売れ残る
といった事例も多く、「売るより返した方が良い」と判断されることがあります。
相続人の家計やライフプランによっては、“維持し続けるメリットよりも負担の方が大きい”と判断され、返還が現実的な選択肢となることがあります。
このようなお悩みがある場合は、借地権を返還する(手放す)という選択肢が、適切です。
借地権を地主に返還する2つの方法

借地権を地主に返還する方法は、主に以下の二つです。
- 更地にして返還する
- 建物を地主に買い取ってもらう
①更地にして返還する
「更地返還」とは、借地契約が終わるときに 借地人が自分の費用で建物を取り壊し、何もない状態にして土地を返す方法 です。
多くの借地契約には「原状回復義務」があり、借りた土地を借りたときの状態に戻して返すという考え方が基本になります。
そのため、特別な取り決めがない限り、建物を解体して更地で返すのが一般的です。
その際、建物の解体費用は借地人が負担します。
建物の大きさや構造によって費用は変わりますが、200万~300万円になることも珍しくありません。
更地にして返還する場合、借地権の対価として地主からお金をもらえるわけではありません。
あくまで権利を手放す行為に近く、経済的なメリットはほとんどありません。
② 建物を地主に買い取ってもらう
借地契約が終了するタイミングで、借地上の建物を地主に「時価」で買い取ってもらう方法があります。
これは大きく分けて次の2つのパターンがあります。
- 法律で認められた“建物買取請求権”を使う場合
- 法律要件を満たさないが、当事者同士の交渉で買い取りに合意する場合
パターン①:建物買取請求権を使う場合
建物買取請求権とは、借地契約が期間満了を迎え、契約が更新されなかったときには、借地人は地主に対して「この建物を時価で買い取ってください」と請求することができる権利のことです。(借地借家法13条)
この権利の大きな特徴▼
- 借地人が請求すれば、地主は原則として拒否できない
- 建物は“時価”で買い取られる(ただし査定調整あり)
つまり、借地契約が終わる際に、建物をただ解体するよりもお金が戻ってくるため、借地人にとって有利な制度といえます。
ただし、建物買取請求権が使えないケースもあります。
例えば──
- 地代を長期間滞納していた
- 契約違反で借地契約を解除されてしまった
このように、借地人側の債務不履行が原因で契約が終了した場合は、この請求権を行使できません。
ケース②:交渉によって建物を地主に買い取って貰う場合
建物買取請求権が使えない状況でも、地主との話し合い次第で 建物を買い取ってもらえるケース があります。
例えば、
- 地主が土地を更地にして活用したい
- 建物が使いやすい構造で、そのまま賃貸や用途変更に活かせる
- 将来の土地活用のために建物を一体化して管理したい
など、地主側にメリットがある場合です。
交渉による買取のポイント▼
- 法律上の強制力はない(地主が拒否することもある)
- 建物の買取価格は協議で決まる(査定や相場は参考程度)
- 契約書や覚書を作っておくと後のトラブルを防げる
- 借地権に詳しい不動産仲介業者に入って貰う
借地権を返還するメリット

借地権を返還するメリットは、以下があります。
- 地主との紛争を回避する
- 経済的な負担がなくなる
- 管理の手間がなくなる
1. 地主との紛争を回避する
借地権は、土地の所有者である地主と、土地を借りる借地人との契約関係に基づきます。
契約関係にある以上、地代の値上げ交渉、契約更新時の更新料、建物の増改築や建て替えに関する承諾など、様々な場面で意見の対立が生じる可能性があります。
交渉が不調に終われば、調停や訴訟といった法的な手続きに発展することも少なくありません。
借地権を返還することで、これらの潜在的な紛争の種を根本からなくすことができます。
将来にわたる地主との煩わしい交渉や、それに伴う精神的なストレスから解放される点は、大きなメリットと言えるでしょう。
2. 経済的な負担がなくなる
借地権を維持するためには、継続的な経済的負担が伴います。
毎月支払う地代はもちろんのこと、契約更新時にはまとまった額の更新料が必要となる場合があります。
また、建物の建て替えや大規模な修繕を行う際には、地主に対して承諾料を支払うケースも一般的です。
これらの費用は、景気や周辺の土地価格の変動によって上昇する可能性も否定できません。
借地権を返還すれば、地代、更新料、承諾料といった支出から解放されます。
3. 管理の手間がなくなる
借地上の建物の維持管理は、原則として借地人の責任において行われます。
建物の修繕、庭の手入れ、場合によっては近隣住民との調整など、様々な管理業務が発生します。
特に、相続などで取得したものの遠方に住んでいる場合や、高齢化により管理が難しくなった場合には、これらの手間は大きな負担となり得ます。
また、地主との定期的な連絡や、契約更新に関するやり取りなども必要です。
借地権を返還することで、これらの物理的・時間的な管理業務から解放されるメリットがあります。
借地権を返還する際の注意点

借地権を返還する際の注意点は、以下の通りです。
- 建物の解体費用を負担する必要がある
- 地主への条件交渉が発生する
建物の解体費用を負担する必要がある
借地契約においては、契約終了時に借地人が自費で土地上の建物を解体・撤去し、土地を更地にして地主に返還する「原状回復義務」が定められているのが一般的です。
そのため、借地権を返還する際には、原則として借地人が建物の解体費用を全額負担する必要があります。
建物の規模や構造、アスベストの有無などによっては、解体費用は数百万円から一千万円を超えることもあり、非常に大きな経済的負担となります。
契約内容によっては例外もありますが、まずは解体費用負担の覚悟が必要です。
地主への条件交渉が発生する
借地権の返還は、借地人が一方的に通告して完了するものではなく、地主との合意形成が必要です。
具体的には、返還の時期、原状回復の範囲(どこまでを解体・撤去するか)、そして最も重要な建物の解体費用をどちらがどれだけ負担するか、といった点について地主と交渉し、条件を取り決める必要があります。
地主側にも「すぐに返還されても困る」「解体費用は負担したくない」などの意向があるため、交渉がスムーズに進むとは限りません。
場合によっては、返還条件で折り合いがつかず、交渉が長期化したり、弁護士などの専門家を介する必要が生じたりすることもあります。
相続した借地権を返還する手続きの流れ
借地権を地主に返還する場合、一般的に以下のステップで手続きを進めます。
- 地主への意向の伝達
- 地主との協議・交渉
- 合意書の作成
- 建物の取り壊し・原状回復(必要に応じて)
- 借地契約の解約手続き
- 土地の返還
借地権返還で最も重要なのは、地主との丁寧な協議による円満な合意形成です。
特に建物解体費用などの条件を明確にし、後々のトラブルを防ぐため、合意内容は必ず書面(合意書)で残しましょう。
地主への交渉が難しい場合は、借地権の専門家への相談も検討してください。
【重要】借地権の返還よりも売却の方がお得?
借地権を相続した場合、「返還するか、それとも売却するか」は非常に大きな判断ポイントです。
結論から言うと、多くのケースで“売却の方がお得”な可能性が高いです。
売却すれば手元にお金が残る(返還はゼロ円)
借地権を返還すると、通常は何の対価も発生しません。
むしろ、更地にして返還する場合は、解体費用で200~300万ほどかかる可能性があります。
一方で借地権付き建物を売却した場合は、
- 借地権価格
- 建物価格
- 借地権割合に基づく相場
などに基づいて借地権の市場価格を算出し。売却代金として現金が手に入る ため、経済的には圧倒的に売却が有利です。
特に都市部では借地権だけで数百万円~数千万円になるケースも多いため、「何ももらえない返還」は非常にもったいない選択になりがちです。
第三者へ売る選択肢もある(市場でも買い手はいる)
「借地は売れない」という誤解が多いですが、実際には以下の買い手がいます。
- 借地権物件を扱う不動産会社
- 借地権を理解した個人の買主
- 底地投資家
借地権は一般の土地建物より流動性は低いものの、相場に合わせて価格設定すれば売却は可能です。
第三者への借地権の売却は、借地権に詳しい不動産会社に仲介を依頼することで、トラブルのない迅速な取引が実現します。
| 地主への返還 | 第三者への売却 | |
| 金銭的な対価 | なし | あり |
| 建物の解体費用 | 借地人負担が原則 | 解体不要の場合もある |
| 地主の承諾 | 必要 | 必要 ※ |
※センチュリー21中央プロパティーでは、地主の承諾なしで売却可能です
【完全無料】相続した借地権の返還・売却相談受付中

借地権の返還は、無償でできるケースは稀で、更地での返還が原則となります。
また、建物を地主に買い取って貰う方法もありますが、買取価格は第三者への売却よりも大幅に低くなる可能性が高いです。
金銭的な対価を好条件で得るには、第三者に借地権を売却するのがおすすめです。
センチュリー21中央プロパティーでは、建物の解体不要で借地権を売却することが可能です。
また、地主の承諾が得られない場合も、独自のノウハウと販売ルートにより、そのままの状態で購入してくれる買主を探すことができます。
借地権の返還や売却なら、センチュリー21中央プロパティーへご相談ください。
この記事の監修者
弁護士
エルピス総合法律事務所 代表弁護士/宅地建物取引士
東京大学法学部を卒業後、20年以上にわたり不動産法務の最前線で活躍するスペシャリスト。東京弁護士会に所属し、弁護士資格に加え宅地建物取引士の資格も有することで、法律と不動産実務の両面から深い専門知識と豊富な経験を持つ。
特に借地権における紛争解決においては、業界屈指の実績を誇り、借地権更新料問題、地代増減額請求、借地非訟事件、建物収去土地明渡請求など、複雑な案件を数多く解決に導いてきた。
著書に「事例でわかる 大家さん・不動産屋さんのための改正民法の実務Q&A」がある。メディア出演やセミナー登壇実績も多数。